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――なぜ詩織が?
お嬢様だから?
向かっている廃屋は通学路とはなっているが普段は人通りが少なく、付近も空き家が多い。
ましてや夜では誰も通ろうとしないため、助けは期待できないだろう。
――私が行かないと!
ある重要な要素が思考から抜け落ちていることに舞は気付かず走っていた。
―――――
陽が落ちた闇の中、廃屋が見えた所で一旦立ち止まり、息を整え、様子を窺う。
廃屋の近くに先程見た車が見えると、自然と体に力が入る。
音を立てないよう慎重に近づく。
外には誰も見えない。
裏にまわると中が見える小さな窓と扉があった。
中を覗くと大きな部屋があり、至る所に木箱やダンボール箱が置かれていて、長く触られていないのか蜘蛛の巣や埃がかかっている様子がわかる。
そのため見にくいが、部屋の壁沿いに木の椅子が置かれ、気絶している詩織が猿ぐつわ、それに手と足を縛られて座らされている。
だが、部屋には詩織以外、誰も居ないようだ。
他にも部屋があるのだろう。
――埃っぽい部屋に詩織を置いておくなんて。
沸き立つ怒りを留めながら舞は扉を開け、詩織へと近づく。
舞は詩織をゆっくりと揺らし起こす。
詩織は朧気に目を開け、部屋を見回し、舞の方を見るとくぐもった声を上げる。
「ん~~!ん~~!!」
「詩織、静かにして」
堅く結ばれた縄に苦戦しつつ、小声で話しかける。
「ん~~~!!」
「詩織! 静かにしてって……」
ふと足音が聞こえ、後ろに人の気配を感じて振り返ろうとした途端に、体中を電気が駆け巡る。
「お前が静かにしたらどうだ?」
男の声を背中に受けながら、舞は倒れた。
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