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陽が傾き、間もなく橙色の世界が近づく中、一人ひとり帰り支度や部活で教室から居なくなっていく。
「舞! 早よ行こ!」
急かされるまま足早に学校を出発し、とりあえず商店街に向かって歩き出した舞と渚。
案内といっても、この町に観光名所となるような、めぼしい物はない。
どこにでもある少し大きな町。
強いて言うなら、廃屋や廃工場があるくらいで、たまにそれを見に来る人もいるらしい。
さっきも写真を撮っている5人組がいて、その廃屋をどう使うかで盛り上がっていた。
市も工場を巡るツアーなどを作り、町の活性化へ向けて本格的に動き始めたらしい。
そんな話をしながら商店街に差しかかったとき、見慣れた顔の“元親友”が車の後部座席から降りる姿が目に入った。
「……………。」
「…舞? あの子誰?」
「詩織。私の幼なじみ」
「そうなん? なら挨拶しとかんとな!」
軽い口調で話す渚に舞は苛立ちを感じていた。
「……挨拶するのは勝手だけど、私は帰るね」
「え!? なんで? 幼馴染みなんやったら挨拶せんと、って…喧嘩でもしてるん?」
「渚には関係無いと思うけど」
「そりゃ関係無いけど…。でもほっとけへんやん! 喧嘩してるんやったら。…仲直りできひんかな?」
――大きなお世話。
私と詩織を仲直りさせようなんて。
「……必要ないよ」
呟いた否定の意思は、橙に染まったアスファルトに吸い込まれていった。
「でもずっとこのままなんて…」
「……聞きたくない」
「だからって…」
「聞きたくないって言ってるでしょ! 私の気持ちも知らないで! 今日会ったばっかりの人に言われる筋合い無い!!」
舞は何も聞く気がなかった。
舞は何も考えられなかった。
渚に想いをぶつけ置き去りにしたまま、心にかかる霧を振り払うかのように舞は走り出した。
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