第二章「聖嶺魔法学園」

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 ──およそ10分後。  クラスメートの大体が落ち着き、龍也の周囲には華音以外誰もいなくなっていた。  そんな中、龍也は生ける屍となって机に突っ伏していた。 「…………」 「龍也くーん? 大丈夫ー?」  華音がそう言いながら指で龍也の肩をツンツンと突っつく。  龍也は「あー……」と気の抜けた声を漏らし、両手に力を込めなんとか上体を起こした。 「あー……疲れた。なんだったんだ今のは……」 「あはは……お疲れさま。  やっぱり、みんな龍也くんのことが気になるんだよ。新しいクラスメートだし、高等部入学じゃなくて転入って珍しいしさ」  華音のその言葉に、龍也は「そんなモンなのかなあ……」と眉を潜める。  最強の魔導師──ある時は“英雄”と称えられ、またある時は“怪物(バケモノ)”と恐れられる。そんな立場である龍也は、あれほど大勢の人たちに囲まれて質問責めされることなど、今まで有り得なかった。  これが学園か、恐ろしいトコロだ……と、未知の体験に龍也はフラフラとしながら心中で慄いていた。 「ん……?」  ──それから数分後、ようやく復活した龍也。  そこで、自分と華音以外もう誰も教室にいないことに気付いた。 「華音……もしかして、俺のこと待っててくれたのか?」 「ん……うん。だって龍也くん、寮の場所とかまだ把握してないよね?  ひとりだったら迷子になっちゃわないかなーって、心配になってさ」  目を瞬かせながらの龍也の言葉に、華音はさも当然のことをしているといわん風に、小さく首を傾げながらそう返す。その優しさに、龍也は思わず感嘆の息を吐いた。 「ハハ……仰る通りだよ。ありがとうな」 「いいのいいの。じゃ、そろそろ行こっか!」 「ああ、そうだな」  感謝の言葉と共に会釈程度に頭を下げた龍也に、華音ははにかみながら小さく手を振り、席を立つ。  それに連られるように立ち上がりながら、龍也は改めて思った──席がここで良かった。そして華音みたいな優しい子が隣の席にいて良かった、と。  そして──次に薄情者(すざく)を見つけた時はとりあえず一発顔面に蹴りを入れてやろう、と。  ──で、その薄情者(すざく)はというと……。 「なぁなぁ朱雀……ほんとに置いてきちゃって良かったのかよ?」 「問題ない。龍也なら大丈夫だ、多分」 「多分って、お前なぁ……」  校舎を振り返りながらそう言う遼に、しれっとした表情でそう言う朱雀──2人は、とっくに校舎を後にし寮へと続く石畳の道を歩いていた。  ──当然、朱雀は龍也からの視線(ヘルプ)には気付いていた。しかし、あんなおかしなテンションの人混みに突貫するほど朱雀は無謀じゃない。  そしてなにより──中等部で朱雀(じぶん)が体験したことなのだから、龍也(おまえ)も体験しないと不公平だろう……という思いが朱雀にはあった。  最も、心中でそう思っているだけなので、龍也がそんな事情を知る由もないのだが。  寮に着くと、朱雀は出入口を通る人の邪魔にならないよう側壁に寄り掛かりながら口を開いた。 「さて……龍也が来るまでここで待っていようか。  さすがに、あいつを置いて部屋に行っちまうのは薄情だからな」 「いや、質問責めに合っている友人の助けを無視するのも十分薄情だと思うけどな……」  目を閉じ、まるで自分が優しい人間だとでもいわん風な口振りでそう言う朱雀に、遼は思わず眉をひそめながらそう呟く──が、薄く開かれた片目を向けつつ「ん……なにか文句でも?」と声色を低くした朱雀に、首を横に振った。 「いや……なんでもねぇ。  それよりさ、その龍也ってやつ……(ここ)を知ってるのか?」 「……ああ、そのことを失念していたな」 「えぇー……」  ──朱雀と遼が寮の出入口前で駄弁っている頃、龍也と華音は……。 「にしても、この学園はホンット広いな」 「そうだねー。初等部から高等部まで全部入ってるし、その分生徒数も凄いからね」  龍也が辺りを見渡しながらそう言い、華音が頷く──先ほどの件から初対面とは思えないほどに打ち解けた2人は、他愛もない会話をしながら寮へと続く石畳の道を歩いていた。 「それにしても朱雀のヤロウ……どこに行きやがったんだ……」 「あれ、龍也くんって朱雀くんと知り合いなの?」 「ん、ああ……朱雀は昔からの知り合いだよ。  ……そう言う華音も、朱雀のコト知ってんのか」 「有名人だよ、朱雀くん? いろいろ凄いし。  朱雀くんとは中等部の頃に模擬戦の授業で当たってね……それからかな、話すようになったのは」  華音のその言葉に「なるほどねえ……」と、龍也は思考を巡らせる。  朱雀は昔から、戦闘能力的に優秀な人間を好んで近くに置く節がある── “蒼焔の剣凰”として“輝きの空”の部隊に招き入れるという意味はもちろん、戦ったら面白そうという私情も込みで。  しかし学生としての朱雀に部隊云々の目的はない。  つまり──。 「そうか。じゃあ……華音は優秀なんだ?」 「えぇっ!? い、いやっ、そんな言うほどじゃないよ……?」  脳内で弾き出した結論を口にした龍也に、華音は慌てた様子で両手を振る──まあ、急にこんなコト言われて「はい」って答えるヤツはいねえよな、と心中で笑みながら、龍也は言葉を続けた。 「へえ、じゃあランクと属性は?」 「え、えーっと……中等部の最後に昇格の試験を受けれたから……Cかな? 属性は光だよ」  華音のその言葉を、龍也は頭の中で自身が記憶しているデータに当てはめていく。  少し前、学園に入学する際の参考程度にとギルドの登録者データを閲覧した限りでは、同年代──中等部から高等部1年に上がりたての少年少女のギルド登録者は、精々Dランクが良いところ。  しかし、華音はそれよりひとつ上のCランク。更に、属性は()()とされる“光”である──聞く限りじゃあ、相当のモンだな。龍也は感心したように心中で呟いた。 「なるほど……朱雀(アイツ)が気に入る訳だ。  アイツは強いヤツが大好きだからなあ。戦ったら楽しそうとかなんとかでさ」 「はは……確かに。朱雀くんってそういうところあるかも……戦闘狂って言っていいのかな?」  華音の“戦闘狂”という的を射すぎている例えに、龍也は思わずククッと笑い声を漏らし「違いねえな」と口にした。  
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