第三章「いきなりのテスト、そして魔武器精製」

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 ──それから暫くして、全員報告が終わったのか志乃が「集合」の合図を掛けた。  集合とは言われたものの整列とは言われていないためか、志乃の周囲を円で囲むようにクラスメート全員が集まる。全員が大なり小なり魔武器を持っている状態のため、それなりに間隔は空いている。  龍也たちは後ろの方に立ち、志乃の話に耳を傾けた。 「集まったわね。  今日の授業はこれでお終い……なんだけど、初めて魔武器を持った皆に、1つだけ教えておかなければいけないことがあるわ」  真剣な面持ちの志乃の言葉に、生徒たちの背筋も自然と伸びる。  志乃は、一呼吸置いて再び口を開いた。 「魔武器(それ)は、皆にとってかけがえのないパートナーになるでしょう……でも、忘れてはいけません。  魔武器(それ)は凶器であり……()()()()()道具です。考え無しに振るえば、他人のみならず自分自身も傷付けるモノです。  だから……自らの魔武器に“恐怖心”を持つことを忘れないで下さい。ただ、“(こわ)がれ”という訳ではありません。恐怖という、一種の自制心を持てということです。  ……まだ、意味が分からないかも知れません。ですが、この先様々なことを学んでいくうちに分かるようになるでしょう。だから、今は覚えておいてくれるだけで構いません。  ──もう1度言います。自らの魔武器に対する、“恐怖心”を忘れないで下さい……以上です」  ある種の凄みさえ感じさせる志乃のその言葉に、クラスメートのほとんどは呆気に取られたように「は、はい……」と空返事で返す──その意味を理解できた生徒は、数えるほどもいないだろう。   当然、その意味を理解している龍也と朱雀。  龍也は「へえ、イイコト言うじゃん」と感心した様子で頷き、朱雀は「魔武器精製の授業の度にこれを教えているとするなら……中々攻めた教育方針だな」と神妙な面持ちで呟いた。  ──生徒たちの様子を一頻り観察していた志乃は「今はそれでいいわ」と小さく呟き、パンパンと手を2回叩き皆の注目を集める。  そして、普段通りの口調で口を開いた。 「……じゃ、今度こそ授業は終わりよ。魔武器は銘を呼べば自由に出したり仕舞ったりできるから、闘技場から出る時はちゃんと仕舞ってからね。  ホームルームは免除するから、各自教室に戻ったらそのまま帰っていいわよ。  ……それじゃあ解散! また明日ね」  志乃はそう言うと、空になった箱を片付け始める。  志乃の言葉を受けた生徒たちは数秒固まるも、すぐにいつもの調子を取り戻し「さようならー」と口々に挨拶をしながら、魔武器を仕舞い雑談混じりで闘技場の出入口へと向かった。  龍也は出入口に出来たクラスメートたちの人波を見ながら欠伸を噛み殺し、隣にいる朱雀に話し掛ける。 「なあ、朱雀。教室まで歩くの面倒だから“転移”しようぜ?」 「ふむ、そうだな……既に今日の授業はないし、確かに皆より一足先に帰る方が得策だな」  授業前に歩いた長い道のりを思い出しながらそう提案する龍也に、朱雀は「たまには楽をするのも良いか……」と、心中で呟きながら頷く。 「それでさ、この後学園の敷地内にある商店街とやらを見て回りたいんだよ」 「ああ、聖嶺商店街か? 知ってたんだな……じゃあ、案内がてら俺も同行しようかな」 「おう、頼むぜ」  龍也と朱雀は話が纏まると、後方を歩く遼たち4人へと視線を向ける。  それに気づいた遼が「どうしたんだ?」といわん風に首を傾げると、2人は口を開いた。 「すまんが、俺たちは一足先に帰らせて貰う……“転移”」 「そういうこった。またなー……“転移”」  そう言い残し、遼たちがなにか言う前に2人は“転移”を発動──音もなくその場から消えてしまった。 「えっ、ちょっ、おまっ、朱雀──行っちまったな……」 「龍也も行っちゃったわね……。  ていうか、なんであんな簡単に“転移”が使えるのよ。あの2人は……」 「え、Aランクだから……かなあ?」  遼、玲奈、水乃がそんなことを言っている中、華音は1人黙り込んでいた──ぐるぐると、思考を巡らせながら。  先ほどの魔武器の見せ合いで、龍也が華音に向けて言った「普通に良い武器」という言葉── “白羽”は見た目こそ普通の短剣だが、問題は“固有魔法”にあった。  作った張本人である華音自身、“白羽”の“固有魔法”をまるで理解しきれていない── “特殊”、その言葉が一番合っていると華音は思っていた。  “固有魔法”が理解できない魔武器が精製(つく)られるとは思ってもいなかった華音は、先ほど遼が口にしていたじきに行われるであろう模擬戦でどう戦うかを考える。  ──考えるが、魔武器を理解してない状態で戦うのは極めて難しい。まともに戦えない。それしか頭に浮かばない。  黙ったまま、口元に手を添え俯き加減で歩いている華音に、玲奈は訝しげな眼を向け口を開く。 「──華音? どうしたの?」 「……えっ? あっ。いやっ、なんでもないよ? ちょっと考えごとしてただけ」  玲奈に声をかけられ、はっと我に返ったようにそう言う華音。その時、華音は初めて龍也と朱雀がいないことに気づく。 「……あれ? 龍也くんと朱雀くんは?」 「え、なに言ってんだ華音? 2人はさっき“転移”で先に帰ったじゃん」  遼はそう言うが、さっきまで考えごとををしていた華音はそれに気づいていなかった。  「そうだったんだ……」と呟く華音に、水乃は心配そうな目を向ける。 「華音……その、大丈夫? なにか悩みごと?」 「え? ……いや、悩みごととかそんなんじゃないの。心配してくれてありがと」  華音は曖昧に微笑み水乃にそう言う。だが、内心かなり不安だった。  遅かれ早かれ、確実に模擬戦はある。その時までに魔武器を使いこなせるようになるのか。練習している魔法を使えるようになるのか。不安材料は山積みだ。  焦っても仕方ない──そう自分に言い聞かせても、その心は先へと走るばかりだ。 (……そうだ、朱雀くんか龍也くんなら、なにかアドバイスしてくれるかな……?)  不意に、華音はそう思い付く。  朱雀は強い。華音が知る限りの同年代の中では、間違いなく最強だといえるほどに。  龍也は戦っている姿こそ見たことないものの、朱雀と同じ“Aランク”である以上同等の力を持っているのだろうと華音は思っている。  ──今はいない2人のどちらかに相談してみよう。あの2人なら、なにか()()になるアドバイスをくれるかもしれない。  そう心に決めた華音だった。  
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