第二十章「すれ違い」

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 感心した様子の飯田に、龍也は肩を竦めながらそう返す。その言葉に「そうなの?」と首を傾げる飯田だが、話し合いをしていた女子生徒たちが「そんなことないよ」と首を横に振った。 「黒宮君、色々考えてくれてたと思うけどな……」 「ねー。黒宮君のアドバイス、すっごい的確だったよ?」  口々にそう言い、笑顔で「だよねー」と顔を見合わせる女子生徒たち。そんな女子生徒たちに飯田は「やっぱり、そうよね」と微笑んだ。 「最初は嫌そうだったけど……“やる”と決まったらしっかりやってくれる辺り、黒宮君は信頼できるわ」 「まあ、決まった以上責任は持つさ……ソレとして朱雀のヤロウは許してねえけどな」  口元に手を添えクスクスと笑みを零しながらそう言う飯田に、龍也はこの場にいない朱雀の顔を思い浮かべながら憎々しげにそう返す。そんな龍也に「私としては有難かったけどね」と眉根を下げつつ、飯田は口を開いた。 「じゃあ……今日のところはこのくらいで解散にしましょうか。文化祭までまだ時間はあるから、ゆっくり進めていきましょう。皆残ってくれてありがとう、お疲れさま」  飯田の言葉に、女子生徒たちは「そうだねー」「じゃあまた明日!」「黒宮君も千華ちゃんも、お疲れ〜」などと口々に返しながら、帰宅の準備をするべく自席へと戻っていく。  そんな女子生徒たちを横目に、龍也は軽く伸びをしながら欠伸を噛み殺す──不意に、飯田が「そういえば」と口を開いた。 「さっき、生徒会の会議が終わった時に伶於(れお)が言ってたけど……今日から、魔闘祭のメンバーは特訓が始まるそうね」 「あー、そうなんだ? 俺は個人戦だから、朱雀からは特になにも言われてねえな……」  飯田の言葉に、欠伸混じりにそう返す龍也。その言葉に飯田は意外そうな表情で「あら、そうなのね」と目を瞬かせる。 「場所は第四闘技場だ、って伶於は言ってたけど……あくまで団体戦に向けた特訓ってことなのかしら?」 「そうなんじゃねえの? 朱雀(アイツ)なら、俺が顔出す必要あれば直接言ってくるだろうしな」  眉をひそめ、小さく首を傾げてそう言う飯田に、龍也はフッと笑みを浮かべ肩を竦めながらそう返す。そんな龍也の言葉に、飯田は「それもそうね」と頷いた。 「……そろそろ私たちも帰りましょうか。長々と話し込んじゃってごめんなさいね。  明日は生徒会に顔を出す用事はないはずだから……文化祭の話し合いも黒宮君に丸投げせずに済むと思うわ」 「……学級委員長サマも大変だな? 生徒会には顔出さにゃならんわ、魔闘祭側に付きっきりの朱雀に代わって文化祭委員も兼任するわでさ」 「そう? もう慣れたものよ。  ……それと他人事みたいに言ってるけど、文化祭が近くなったら黒宮君も生徒会に顔出さないといけなくなると思うわよ?」 「げっ、それはイヤだな……」  * * *  ──龍也が話し合いを終え、帰路に着いている頃。  時を同じくして、第四闘技場──2階の観客席にギャラリーのひとりもいない閑散とした闘技場内に、金属音と爆発音が断続的に鳴り響いた。 「──オラぁあああっ! 喰らいやがれぇッ!!」 「っ……それはこっちの台詞だ、橘!!」  “模擬戦結界”の中、橙色の魔力を撒き散らしフィールドを破壊しながら、薙刀と戦棍が一体となった長柄の魔武器── “ガイアグレイヴ”を振り回す遼と、その猛攻を雷光を纏う青銅色の両手剣(クレイモア)── “エスパーダ” で捌きつつ、雷の射撃魔法を織り交ぜ牽制する伶於。  フィールドの中心で一進一退の攻防を繰り広げるそんな2人を鋭く細めた赤い瞳で見据え、朱雀は口を開いた。 「──踏み込みが甘いぞ、遼ッ! 攻め込み方も雑だ……龍也との模擬戦で見せた底力はどこに行った!?  鋼堂はもっと魔法を多用し距離を取れ! 近距離は“重力”を駆る遼の土俵だ……お前の速度なら、中距離からでも必殺の一撃を叩き込めるはずだ!!」  怒号にも似た朱雀の言葉に、遼と伶於の表情がより一層険しいものとなる。そして2人は同時に雄叫びを上げ、“身体強化”の出力を引き上げた。  フィールドの脇で腕を組み、厳しい視線を向け2人の動きを注視する朱雀──それよりも少し離れた場所で観戦している水乃は、ふぅと息を吐きながら口を開いた。 「やっぱり凄いな……遼も鋼堂君も。私たちも負けないように頑張らないとね、華音。 ……華音?」  水乃は思わず僅かに眉を寄せ、首を傾げながら隣に立つ華音へと視線を向ける──ぼうっとした灰色の瞳は、フィールド上の模擬戦を映しているようで全く別のところを見ていた。 (……龍也くん、今頃なにしてるんだろう。まだ話し合いは続いてるのかな……もし終わってて、他の女子(ひと)と帰ってたりしたら、私……──) 「──ん……のん。華音っ!」 「……っ!? み、水乃……ちゃん?」  大声で名前を呼ばれ、華音はビクッと肩を震わせる。そして恐る恐る声の方を向くと、水乃がまるで睨み付けるような、少し細めた目で華音の顔を見つめていた。  そんな水乃の表情に気圧されつつ「ど、どうしたの……?」と声を震わせる華音。水乃は、ハァとため息を吐き口を開く。 「どうしたの……は、こっちの台詞だよ、華音。  ……さっきから変だよ? 心ここにあらずって感じでさ、名前を呼んでも全然反応しないし」 「……ご、ごめん」  水乃の言葉に、華音は思わず目を逸らし半ば反射的に謝罪の言葉を口にする──まるで心のこもっていないそれは当然のごとく見透かされたようで、水乃はむっと眉をひそめた。 「ごめん、って……それ、なにに対して謝ってるの?」  
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