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* * *
──時は流れ、次の週。
休日の間色々考えたものの、結局いい案が思い浮かばなかった水乃は、ため息を吐きながら寮を出た。
「ううん……先週「無理しないで」とか華音に言ってたくせに、私が休みたくなっててどうするの……」
校舎へと向かう他学年の生徒たちが次々と横を通り過ぎていく中、水乃はひとりそう弱々しく零す──現在時刻は、丁度8時を回ったところ。
どんどんと自身を追い抜かしていく人波を横目に、校舎へと続く石畳の道を重い足取りで歩く水乃──ふと、顔を上げる。
数メートル先──登校する生徒たちの人波の中、プラチナのような白髪をショートカットにした、よく知る少女の後ろ姿が目に映った。
「あっ……華音!」
思わず声を上げ、その後ろ姿へと小走りで近付く水乃。
そして、その声が聞こえたのか、少女──華音もぴたりと足を止め、くるりと身体ごと振り返る。
「──おはよっ、水乃ちゃん」
朝日を浴びてキラキラと光る白髪をふわっと揺らし、屈託のない笑顔で挨拶を口にする華音──先週までの傷心していた様相からは想像できないその明るい表情に、水乃は目を瞬かせながら「……え」と抜けた声を零す。
そんな水乃に、華音はきょとんとした顔で「どうしたの?」と小さく首を傾げた。
「あ、えっと……おはよ、華音。
なんというか、その……元気になった?」
華音の隣に並びながら、困惑を隠し切れない様子でそう尋ねる水乃。その言葉に、華音は歩きながら「あー……そうだったね」と苦笑を零し、人差し指で頬を掻いた。
「私ね、お休みの間に色々考えてたの……龍也くんのこと。それでね、思ったんだ。龍也くんが私のこと避けてたとしても、他の女子と仲良くしても……私が龍也くんを“好き ”って気持ちは、変わらないって。
……そう思うようになったら、なんだか悩むのがばからしくなっちゃってさ」
真っ直ぐに遠くを見つめ、吹っ切れたような表情でそう言う華音。そして水乃の方を見ると、申し訳なさそうに眉根を下げ「その……先週は迷惑掛けてごめんね?」と、片手で拝んだ。
そんな華音の言葉を、あっけに取られたような表情で聞いていた水乃──ふ、と。控え目な笑みを浮かべ「……そっか」と零す。
(……どう手助けしようかとか、色々考えてたけど……その必要は無さそうかな。強いね……華音は)
そう心中で呟きつつ、水乃は「ううん、気にしてないよ」と華音の謝罪に対して首を横に振った。
「私は、華音が元気になったのならそれで良いよ。多分、朱雀たちも気にしてないと思うし……だから魔闘祭の特訓、一緒に頑張ろうね、華音!」
「……! うんっ、ありがとう水乃ちゃん!」
* * *
それから、他愛もない会話をしながら昇降口をくぐり、教室へと向かった2人──華音は吹っ切れた様子だったが、水乃はまだ気掛かりが残っていた。
──そう、龍也の対応である。
「あー……ねっむ」
華音と水乃が教室に着いてから5分ほど経った頃──欠伸を噛み殺しそう呟きながら、龍也が教室に姿を見せた。
自身の席で水乃と雑談していた華音は、それにいち早く気付き「あ、龍也くん」と小さく声を上げる。しかし水乃は、思わず表情を強ばらせゴクリと息を飲んだ──指の隙間から金色の瞳を覗かせる龍也の姿が、脳裏に蘇る。
龍也が近付くにつれ、緊張からか無意識の内にきゅっと手を握り締める水乃──しかし、そんな水乃を余所に華音は笑顔で口を開いた。
「龍也くん、おはよっ」
「……お、華音。オハヨ、もう体調は大丈夫なのか?」
華音の挨拶に、龍也は席に着きながら笑みを浮かべてそう返す──先週までのそっけない反応とはまるで違うそれに、華音はぱあっと表情を輝かせ、水乃は思わず「えっ」と声を零した。
「……なんだよ、水乃?」
「あっ、いや……なんでもないよ」
そんな水乃に、ジトっと細めた蒼い瞳を向ける龍也。水乃は心中で困惑しつつも、慌てたように首を横に振りそう返した。
そんな2人のやり取りに、頭に疑問符を浮かべ首を傾げる華音──しかし、すぐに「それで、体調は快復したのか?」と龍也に話を振られ、そちらへと意識を向けた。
「うんっ、大丈夫だよ。普通のお休みと合わせて3日も休んだからね、この通り!」
「そうか。それなら良いんだ」
耳元の髪を掻き上げながら、はにかんだ笑みを浮かべそう返す華音。その言葉に、龍也は小さく息を吐き頷く──そんな2人のやり取りを横目に、水乃は安堵の表情を浮かべ「……これなら、心配いらないかな」と静かに呟き、華音の席を後にする。
そして、華音と同じ列の先頭──自身の席へと戻りながらふぅと脱力するように息を吐いた。
(……多分、龍也──いや、“戦神”様は華音に正体を知られることを危惧して、距離を置こうとしてたんだと思うけど……きっと、それは杞憂だよ)
心中でそう呟き、席に着いた水乃は後ろを振り返る──まるで先週までの分を取り戻すかのように会話を弾ませる華音と、欠伸をしつつも耳を傾ける龍也。
そんな2人の様子にふっと微笑みを浮かべ、水乃は視線を前に戻した。
(華音は、“戦神”様……ううん、龍也の思ってる以上に、龍也のことしか見てないから。
だから、龍也も……出来る限り、華音のことを見てあげてね)
「……私も、朱雀に見て貰いたいなぁ」
無意識の内に零れた水乃の呟きは、朝のホームルーム5分前を告げる鐘の音に掻き消された──。
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