第二十一章「夜風に散る思い──文化祭、最終準備」

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 龍也と華音が仲直り (?) してから、2週間が経過した──10月も下旬、段々と肌寒さが増し秋めいていく気候の中、聖嶺魔法学園では文化祭及び魔闘祭に向けた準備がより活発化していた。  もちろん、龍也たち1-Aも例外ではなく──。 「──待ちなさぁあああいっ!  さっさと観念して、大人しく()()を着なさいよ──(こう)(どう)っ!!」 「嫌だ──ッ!!  僕は絶対に()()()()()着ないからなぁあああっ!?」  クラスメートの女子たち数人を引き連れ、ドタバタと足音を立てながら廊下を走る玲奈。  まるで獲物を狙う猛獣が如き目で、前方を走る伶於(れお)の背中を見据え叫ぶ──その手には、黒と白を基調としたフリフリなミニスカートのメイド服。  そんな玲奈を先頭とした女子集団から全力で逃走しながら、伶於は必死の形相で叫んだ──。  * * *  時は少し遡り──6時限目の授業が終わった頃。  志乃の計らいによって短く済まされた帰りのホームルームの後、文化祭に向けた準備のため教壇周りに生徒たちが集まる──文化祭委員である龍也と、学級委員長の飯田。そして飾り付けとメニューを担当している女子生徒たち。  普段なら放課後に残るメンバーはこれだけだが、今日はそこに加えて朱雀たち魔闘祭組、そして玲奈と、これまで話し合いに参加していなかった数名の女子生徒も教室に残っていた──どうやら、玲奈が集合を掛けたらしい。 「さぁーて! 集まってくれてアリガトね、みんな!」  教壇に立ち、周囲に集まるクラスメートたちを見渡しながらそう切り出した玲奈。  腕を組み壁に寄り掛かった朱雀は訝しげな表情を浮かべ、そんな玲奈に視線を向ける。 「……それで、俺たちを集めた理由はなんだ、玲奈? 大した用事じゃないなら、魔闘祭の特訓に戻るが……」 「まぁまぁ、チョッと待ちなさいよ朱雀。ここにみんなを集めた理由、それはねー……」  どこか急かすような朱雀の言葉に、玲奈は「ちっちっ」と人差し指を振ると、皆に背中を向けるように屈み“ボックス”を開いた。  それを、頭に疑問符を浮かべ見つめるクラスメートたち──玲奈はバッと勢い良く立ち上がると、“ボックス”から取り出したモノを両手に持ち広げて見せた。 「ジャジャーン! 待たせたわね、みんなっ! ついに、当日使う衣装が完成したわよ!!  生徒会に提出したサンプルよりも、更にカッコ可愛く仕上げられた改良版! 皇都のどこのお店とも違う仕様の、スペシャルな衣装よっ!!」  弾けんばかりの笑顔で声を上げる玲奈──その手には、黒地に白いフリルとリボンがあしらわれた可憐なミニスカートのメイド服と、白の裏地と所々に施された金色の装飾が光る、スタイリッシュな前開きの燕尾服(テールコート)が一着ずつ掲げられていた。  それを見るや「おおーっ!」と歓声を上げ拍手をするクラスメートたち──玲奈が集合させた生徒たち、それは当日に接客を行うメンバーであった。 「へえ、玲奈(オマエ)()が名の知れた仕立屋(テーラー)だってのは聞いてたけど……すげえクオリティだな、コレ。ホントに学生の文化祭に持ち込むレベルか?」 「ふふん、そうでしょ? ウチは仕事に一切妥協しないからね」  掲げられた衣装をまじまじと見つめながら首を傾げる龍也に、玲奈は自信満々に笑う。 「まっ、値段にするとざっと一着5万センスってトコかしらねー……モチロン、みんなは値段なんて気にしないで大丈夫だからね?」  笑顔のまま、しれっと中々の値段を口にする玲奈。その言葉に、クラスメートたちは「聞かされておいて気にしないは無理があるよ」と、思わず苦笑いを浮かべた。  ──そんなクラスメートたちの傍ら、伶於が眼鏡の位置を整えながら口を開く。 「……なるほど。紅崎(こうさき)が僕らを集めた理由は分かった。  それで、これからどうするんだい? 誰かが試着してみたりするのか?」 「うーん……そうね、今日持ってきたのはそれぞれ二着ずつだから、せっかくだし誰か代表して着てみない?」  伶於の質問に、玲奈は小さく首を傾げながらそう返す。  しかしその言葉に対し、クラスメートたちはお互い顔を見合せ小声で「どうしよっか」「ちょっと心の準備が……」などと言葉を交わすのみで、我こそはと手を上げる者はいない。  そんなクラスメートたちに「まぁ、急に言われても困るわよね」と眉根を下げつつ、玲奈は口を開いた。 「じゃあ、メイド服のひとつはあたしが着るわ。言い出しっぺのナントヤラ、ってヤツね。  燕尾服は……龍也、アンタ着てみない?」  そう言いつつ、右手に持ったメイド服を自身の身体に重ね、もう片方の手に持つ燕尾服を龍也の方に差し出しす玲奈。  対して、龍也は眉をひそめながら口を開く。 「俺か? まあ、別にイイけどさ……でも、どうせ俺は当日厨房に付きっきりで接客に回るタイミングはないだろ?」 「いーのよっ、細かいコトは! ソレに、当日厨房から出るコトもあるかもしれないでしょ?」 「お、おう……まあ、どんな格好でも料理はできるし……イイか」    龍也の言葉に、玲奈は笑顔で返しながら押し付けるように燕尾服を渡す。それを受け取りつつ、龍也は釈然としないながらも頷いた。  そんな2人のやり取りを横目に、伶於が「じゃあ……」と口を開く。 「紅崎が言い出しっぺの法則に則るなら、僕もそうするべきかな……燕尾服の残り一着は、僕が担当しようか?」  言葉と共に、燕尾服を受け取るべく玲奈に向けて手を差し出す伶於。  しかし、玲奈は「……なに言ってんのよ?」と首を傾げると、“ボックス”からもう一着の()()()()を取り出しながらニヤリと悪戯っぽく笑った。 「鋼堂……アンタが着るのは、()()()よ?」 「…………は?」  * * *  ──そして、冒頭に戻る訳だが。  玲奈がメイド服を取り出すや否や、身の危険を察知したのか「──御免被るねッ!」と言い残し、伶於は瞬時に身を翻し教室を飛び出していた。  一瞬で眼前から消えた伶於に「察しがイイわね……ッ!」と舌打ちをひとつ、周囲の女子生徒たちを見渡すと「()()()()に追い詰めるわよっ!」と声を上げる玲奈。  それを受けた女子生徒たちは「おー!」と拳を上げ、伶於を追い掛けるように一斉に教室を出ていった──というのが、一連の流れである。  
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