第二章「聖嶺魔法学園」

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 志乃がそう言った途端、ざわっと教室が騒がしくなった。  そんな中、遼がまるで先生の話に「オレそれ知ってるゼ!」と横槍を入れたがる、初等部にいそうなやんちゃ坊主のように元気に手を上げる。 「先生! それって噂 (?) の転入生のことッスよねっ!?」 「あら、よく知っているわね橘君。誰かに聞いたのかな? まぁ、それは置いといて……。  では早速──黒宮君、入ってきて!」  志乃が名前を呼んだ数秒後、扉が開かれ龍也が教室へと足を踏み入れた。  表情こそいつも通りの気怠そうな感じではあるが、心なしか緊張しているようにも見える。  そのまま教壇に上がり志乃の隣に立つ龍也──ざっと教室を見回し、朱雀の姿を確認したところで視線を真っ直ぐに戻す。  朱雀がいなかったらどうしようかと思っていたけど、杞憂だったらしいな──と、龍也は心中で呟いた。 「じゃあ黒宮君。軽く自己紹介してくれる?」 「はいはい」  志乃の言葉に龍也は軽く返事をして、フゥ……と深呼吸を1回。そして、小さく咳払いしてから口を開いた。 「えっと、俺は黒宮 龍也。使える属性は……風。後、ギルドランクはAってトコだ。ヨロシク」  先ほど自身の象徴ともいえる“黒雷”を封印した龍也だが、実は“風”属性も扱うことができる。属性のところで一瞬言い淀んだものの、無難な自己紹介を終えた。  すると、男子生徒からは「Aランク!?」や「すげぇ」という声が上がり、女子生徒からは「カッコいい」や「イケメン」といった黄色い声が上がる。  どうやら容姿やランクについて色々と言われてるみたいだけど、悪い印象は与えてないようだな──と、龍也は自身の無難過ぎる自己紹介に満足した。 「……で、先生。俺の席はドコになるの?」 「ああ、あそこよ。窓際の最後尾。いいところだけど、授業中とかに寝ちゃ駄目よ?」 「はいはい、分かってマスヨ」  龍也は適当に返事をしながら、志乃に言われた席に向かう。  ……窓際の最後尾なんて「寝ろ」と言っているようなモンじゃないか。と、龍也は心中で呟きながら席に着く。金属の骨組みと木製の板で作られたオーソドックスなそれは、案外座り心地が良い。  ふと、龍也は隣に目を向ける。  そこには、白金(プラチナ)のように綺麗な白い髪をショートカットにした、色白の女子生徒が座っていた。  龍也の視線に気付いたのか、女子生徒がグレーの瞳を龍也に向ける。 「あ……」 「ああ、さっきも言ったけど黒宮 龍也。ヨロシク」  軽く手を上げそう言う龍也。  対して女子生徒は龍也の顔を見るや、少し驚いたような表情で目を瞬かせる。が、すぐにそれを引っ込め、ふわっと顔を綻ばせた。 「私は白霧(しらぎり) 華音(かのん)。  シラギリって発音しにくいし、華音って呼んでいいよ。えっと……よろしくね、黒宮くん?」 「ああ。それなら……俺のコトも龍也って呼んでいいぜ」  女子生徒──華音の自己紹介に、龍也は笑みを浮かべてそう返す。確かに、何回も発音してたら噛みそうだな……と、心中で呟きながら。 「ほんと? じゃあ、そうするね……龍也くん。  ──ねぇ。いきなり変なこと聞いてもいい?」  龍也の言葉に笑顔で了承する華音──不意に真面目な表情を浮かべると、そう切り出した。  その言葉に、龍也は「変なコト?」と首を傾げる。 「……私たち、昔どこかで会ったことあるかな?」 「──はっ?  え、いや……多分、俺の記憶が正しいなら初対面だと思うが……」  予想外の質問に、思わず一瞬固まる。  龍也は、少なからず交流のある人間の顔と名前はセットで記憶している──()()の立場上、依頼や任務で関わる人間のほとんどが、身分や位の高い人間であるため、覚えておかないと面倒だからだ。  ──そんな龍也にとって「シラギリ カノン」は、初めて耳にする名前だった。  「他人の空似か……?」と心中で呟きながら、龍也はそう言い首を横に振る。  すると華音は少し残念そうに眉根を下げ「ん……だよね」と小さく頷いた。 「ごめんね、いきなり変なこと聞いちゃって」 「いや、イイさ。別に気にしてない」  龍也がそう切り上げたところで、2人は前を向き志乃の話に耳を傾ける。  しかしタイミング良く (?) 、その話は終わりに近づいていた。 「──と、言うことで。今日は特になにもないから、新しく割り振られた寮の自室を確認して、荷物もちゃんと整理しておいてね。それと、明日も特別時間割だけど、連絡は朝一にするから。  それじゃあ今日はここまで。挨拶はいらないわ……また明日ね」  志乃はそう言って、教室を出ていく。心なしか急いでいる様子だったので、明日以降の準備などこれからの仕事が山積みなのだろう。  最後の方しか聞けなかったが、要所は理解したので良しとする龍也。  ──だが、気付いてしまった。クラスメートのほとんどの視線が龍也に集まっていることに。  ゾワリ、と。何故か、龍也は背筋に震えが走るのを感じた。 「な、なんデショウ……?」  顔をひきつらせながらそう首を傾げる龍也──すると、クラスメートたちは一斉に立ち上がり雪崩(なだれ)るように龍也の元に集まってきた。  そして、口々に龍也に対する質問を言い始める。 「ねぇねぇ、どこからきたの?」 「Aランクって本当?」 「彼女とかいるの?」 「Aランクって魔法どれだけ使えるんだ!?」 「君……中々イイ肉体(カラダ)してるね。僕と裸で語りあ わ な い か ?」  その他にも様々な声色の様々な言葉が入り混じり、ひとつひとつ聞き分けることが困難な状態になってしまう。  状況の理解と整理が追い付かず混乱する龍也は、とりあえず唯一の顔見知りである朱雀に助けを求めようと必死に辺りを見渡した──が、朱雀らしき姿はどこにもいなかった。 「あのヤロウ、帰りやがった……っ!」  恨めしそうに呻きながら、クラスメートたちに揉みくちゃにされる龍也──隣に座っている華音は、クラスメートたちの勢いに若干引きつつ苦笑いで見守っていた。 「がんばれ、龍也くん……!」  
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