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「ムカつくけど、マスターの呼び出しは無視できねえな……行ってやりますか」
「ああ。そうだな」
そう言う龍也に頷きながら朱雀も立ち上がり、どこからともなく蒼いローブを取り出し羽織った。
「ん、朱雀も呼ばれてるのか?」
「ああ」
「……面倒なコトになる予感」
* * *
──国家ギルド“輝きの空”。
人間が住まう大地── “四大陸”を構成する大陸のひとつ、 “東大陸”が擁する大規模ギルドのひとつであり、世間では世界最強のギルドとも呼ばれている。
その大きな理由は、“黒雷の戦神”と“蒼焔の剣凰”── “輝きの空”に隊員として所属する、2人の“魔導師”の存在にある。
魔法士には強さを現すランクがあり、低い順に、E、D、C、B、A、AA、AAA、S、SS、SSS──そして、Xとなっている。
その中でもSランクを超える特に実力の秀でた一部の魔法士たちは魔法を導く師── “魔導師”と呼ばれ、周囲からは魔導師様と敬称を付けられ尊敬される立場となる。
しかし、Xランクは規格外──いうなれば、ヒトを超えたある種のバケモノ──の魔導師にのみ与えられる特別なランクであり、尊敬と同時に畏怖の対象としても見られている。
──“黒雷の戦神”と“蒼焔の剣凰”は共にXランクの魔導師であり、今日に至るまでの様々な逸話から、時に“英雄”として称えられ、またある時には“怪物”として恐れられてきた。
──そんな、尊敬と畏怖の象徴である“黒雷の戦神”──黒宮 龍也。そして“蒼焔の剣凰”──暁 朱雀は、「面倒」という感情丸出しの表情で廊下の突き当たりに位置する一際大きな観音開きの扉の前に立っていた。
「ハア、次はどんな任務なんだろうな……」
「さあな……だがロクな任務じゃないと俺の直感が囁いてるぜ」
フードを目深に被った漆黒のローブ姿の龍也が独り言のように呟いたその言葉に、同じく蒼いローブのフードを被った朱雀は肩を竦めながらそう返す──そんな朱雀の顔を、龍也はフード越しに睨み付けるように見上げた。
「お前さあ……ただでさえ気が滅入ってるってのに、嫌なこと言うなよお」
龍也は恨めしそうにそう言うと、どんよりとしたオーラを撒き散らしながら億劫そうに扉をノックする。
やけに重く聞こえた3回のノックの後、2秒もしない内に中から「入っていいぞー」と男性の軽い声が返ってくる。
その声が耳に届いた瞬間、2人は思わず顔をしかめた。
「チッ、命令するだけの奴はお気楽でいいよなー……失礼しますっと」
「……失礼する」
龍也はそう愚痴を零しながら扉を開け、部屋に足を踏み入れる。朱雀は思わず漏れそうになったため息を飲み込みながら、龍也に続いた。
──部屋の中はしっかりと整頓されており、壁際には天井まで届くほどの高い本棚や一見何に使うかも不明な様々な形状の道具が整然と並べられた棚がいくつも並んでいる。
それ以外に目につくモノといえば、美しい龍の装飾が縁に施された、手利きの職人が手掛けたであろう木製のテーブルと、それの3方を取り囲むいかにも高級そうな黒革のソファーくらいか。
「おぅ、お疲れ! 来てくれたか2人とも!」
龍也と朱雀が部屋に入るなり、扉の対角線上に位置する見るからに座り心地の良さそうな大きな椅子に腰を掛けた男性が、デスクに並べられた書類の束から視線を上げ明るい声で言った。
茶色の髪を短く切り揃え、少し垂れた目と大きな黒に近い茶色の瞳が特徴的なその男性の容姿は可もなく不可もなく──といったところだが、笑みを浮かべたその表情は人を惹き付けるある種のカリスマ性を感じさせる。
この男性こそが、30代前半の若さで国家ギルド“輝きの空”を統率する者──ギルドマスター、司導 悠斗である。
「おうおう、せっかくの休務なのに早起きして来てやったぜ? マスターさんよお」
「こんな朝早くからなんの用だ……マスター」
龍也と朱雀はそう言いながら鬱陶しそうにフードを脱ぎ、眼前のソファーにドカッと腰を掛ける。
龍也は足を組んで背もたれに両腕を乗せ、朱雀は腕を組みソファーに深く身を預ける──どこからどう見ても、上司を前にした態度には見えない。
悠斗は、そんな不機嫌丸出しでふんぞり返る2人に思わず苦笑を浮かべながら口を開いた。
「あー、そうだな。お前たちの思ってる通り新しい任務だぞ……ただし、龍也だけな」
「はあ? 俺だけえ? んだそりゃ……」
「なんだ、なら俺は関係ないんじゃ……」
「ところがどっこい。朱雀にも関係があるんだよなぁ」
「……?」
「うげぇ」と顔をしかめる龍也と、訝しげな顔の朱雀。悠斗は2人を交互に見やり、一度咳払いをして口を開いた。
「新しい任務、その内容は……龍也!
──お前には、魔法学園に入学してもらう!!」
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