零ノ話

2/11
409人が本棚に入れています
本棚に追加
/524ページ
「その男をこちらに渡せ!八つ裂きにしてくれる!!」  耳をつんざく、金切り声。  辺りは昼間なのに暗く、それも夜の黒に紫を混ぜた…まるで魔界のような闇。  そんな色彩の空間に存在したる4つのモノ。  一人は吉良(きら)、辺りの景色に溶けてしまうのでは無いかという程、黒い袴に対照的な純白の羽織。  また、見事に真っ黒の長い髪を一つに纏めている。  左の目元に深々と刻まれた皺が、彼を堀深く見せる。  そんな厳格な雰囲気の隣には、打って変わって深紅の着物に、漆黒の羽織姿の由良(ゆら)。  これが素の顔なのか、この状況で微笑んでいる風にも取れる穏やかな表情。  黒い艶やかな髪は、肩に付くか付かないかくらいで切り揃えられている。  二人の双眸は、吉良は新緑、由良は淡紫の異国人のような色素だ。  そんな二人の後ろには、一人の男が居た。  だらしなく服は着崩れ、髪は散らかし、腰が抜けて両手を付いて、顔は恐怖で染まっている。  その男を指差し、対峙するように立つ女……否、女だったモノ。  それは髪は抜け落ち、体の肉は所々剥がれ、声はしゃがれて、既に人の声では無かった。
/524ページ

最初のコメントを投稿しよう!