壱ノ話【水】

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「うーん…悪いが、こんな長閑な村だぁ。章吉の事件以外の殺しや自殺どころか、事故とかの不運な死も聞かねぇな。何かある度にすぐさま村中広まるんだけどなぁ…」 「そうですか。お仕事中、失礼しました」 「良いってことよ。姉ちゃん別嬪やなぁ、どや、おらの息子に…」 「いいえ、私は各地を旅する身、息子さんには家事や畑仕事の得意な素敵な方がよろしいと思います」  由良はそう言うと、若干逃げるように農夫に礼をして去った。 「どうだ?」 「やはり、皆同じです」 「そうか…」  八方塞がりで、何の情報も得られない。  息詰まる二人は少し、立ち尽くした。 「…何か食うか」 「また甘い物ですか?兄上」 「頭が痛くなってきた。糖分だ」  そう吐き捨て、吉良は甘味処に向かって歩き出した。 「兄上…もう」  何の進展も無いまま良いのだろうか、何て由良は思いつつも吉良は昔からこうだった。
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