壱ノ話【水】

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「是非抱いてくれよ!ほら、吉良さん!」 「あぁ、まだ首が据わっていないだろう…俺には難しい。由良、俺の代わりに抱いてやってくれ」 「じゃあ、由良さん!」  由良は赤子をそっと女性から受け取った。 「あらぁ、こうして見ると由良さんも立派なお母ぁに見える!」 「そんな…」  少し照れくさそうに笑って、由良は赤子の頭をそっと撫でてやる。 「あぁ、初出産の娘がお二人さんに名前を付けてもらって、抱かれて幸せもんやなぁ。その子、ほんの七日前に産まれたんだぁ」 「へぇ、じゃあ本当に産まれてすぐだな」  吉良も覗き込んで赤子を見る。 「さぞかし大変だったでしょう、出産は―――!」  そこで由良はハッと目を見開く。 「由良…?」 「ありゃ、由良さんどうしたぁ?」 「…」  返事もしないで由良は暫く動きを止めた。  そして、赤子をそっと女性に返し、 「兄上、今すぐ香苗さんの元へ行きましょう」  そう言って、立ち上がった。  * * *
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