壱ノ話【水】

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「おっ母!あれ見てくんろ!船だぁ」  千都は香苗の袖を引っ張って、海に浮かぶ大きな船を指さした。 「あんなでけぇの初めてだぁ!異国にも行けそうだなぁ」  はしゃぐ千都に香苗は表情を変えず、 「千都、おら達あれに乗るんだぁ」 と、千都に言った。  千都は目を丸くして、 「えっ!あれに乗れるんかぁ!」 「そうさぁ」 「わぁ、信じられんなぁ!嬉しいなぁ」  くるくると走り回って、時々飛び跳ねて喜ぶ。 「おっ母、何時くらい乗るんだぁ?夕方には間に合うかなぁ」 「…千都、実はなぁ…」  ザバァッ!!  海から大きな水しぶきが上がった。  千都と香苗はハッと海岸を振り返った。 「な、何だ…」  海水がまるで龍のようにうねり、千都と香苗を囲んだ。 「ち、千都、こっちへ!」  香苗は千都を自分の近くに抱き寄せた。
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