409人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひ、ひぃ!」
情けない声を上げ、男は体を引きずるように、再び吉良の後ろへズルズル移動した。
男は反射的に両手で耳を塞ぎ、両目をギュッと瞑る。
「寄るな」
吉良が左手を真っ直ぐ女へ突き出した。
その先には、幾つもの模様が描かれた呪符が握られている。
何が書いてあるか分からないが、ただならぬ雰囲気を察した女は急停止する。
「俺に攻撃する前に、お前が消滅するぞ」
女は、その言葉がはったりの類で無いと、今はほとんど失った肌でヒシヒシと感じた。
このまま吉良に向かって行けばどうなるのか分からないが、確実に自分は負けるだろう……女にはそんな未来予想図が出来上がっていた。
「ぐ…」
困惑した女の目が、横へ横へと泳いで行った。
「!」
その先に丁度、由良の姿が目に入った。
相変わらずの穏やかな表情、敵意すら感じられない。
瞬間、すぐさま進行方向を変え、女は由良に向かった。
「ははは!小娘、お前から引き裂いてくれる!」
小柄で、武器も何も持っていなかった女性の由良が、この中で一番弱いと思ったのだろう、女は頬の肉をボロボロ崩しながら笑った。
最初のコメントを投稿しよう!