零ノ話

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「ひ、ひぃ!」  情けない声を上げ、男は体を引きずるように、再び吉良の後ろへズルズル移動した。  男は反射的に両手で耳を塞ぎ、両目をギュッと瞑る。 「寄るな」  吉良が左手を真っ直ぐ女へ突き出した。  その先には、幾つもの模様が描かれた呪符が握られている。  何が書いてあるか分からないが、ただならぬ雰囲気を察した女は急停止する。 「俺に攻撃する前に、お前が消滅するぞ」  女は、その言葉がはったりの類で無いと、今はほとんど失った肌でヒシヒシと感じた。  このまま吉良に向かって行けばどうなるのか分からないが、確実に自分は負けるだろう……女にはそんな未来予想図が出来上がっていた。 「ぐ…」  困惑した女の目が、横へ横へと泳いで行った。 「!」  その先に丁度、由良の姿が目に入った。  相変わらずの穏やかな表情、敵意すら感じられない。  瞬間、すぐさま進行方向を変え、女は由良に向かった。 「ははは!小娘、お前から引き裂いてくれる!」  小柄で、武器も何も持っていなかった女性の由良が、この中で一番弱いと思ったのだろう、女は頬の肉をボロボロ崩しながら笑った。
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