壱ノ話【水】

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「お、おらが…おらが悪いんだぁ、美代、この子は関係ねぇ!!」  香苗がそう叫んだ瞬間…。 「そこまでだ」  二人は頭上から聞こえた声を辿った。  見上げると、大きな黒い翼を持った男、それに抱き抱えられている由良、男の足首に片手でぶら下がっている吉良。  そのまま吉良は手を離して軽々と着地した。 「おっちゃん、姉ちゃん!!」 「間に合ったようですね」 「か、烏…?いや、天狗様?」  大きな翼を生やした男性をマジマジと千都は見つめた。  案山子とは違い、むすっとした無表情に、黒くて長い髪。  容姿端麗な顔つきだが、それが余計に氷のような冷淡さを醸し出していた。 「えぇ、彼は形神の烏天狗。彼にここまで運んでもらいました」 「由良は兎も角、何故吉良も運ばねばならんのだ」  烏天狗は手を組んで苛々とする。 「仕方ないだろう、緊急事態だ」 「おっ、おのれぇええええ!!」  地響きのような低い声を女が上げると、周りの地面からボコッと手が出て来た。  それは次々に、地面を盛り上げ、体を現した。  やせ細り、腹だけが異常に肥えた人の子供程の異形。
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