壱ノ話【水】

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「ば、化け物っ!」 「えぇ、死鬼と化すと、この世漂う負の気を呼び寄せます。それは、悪霊、妖怪、物の怪の類、人ではない魔の物すらも召還する力を持ちます」 「餓鬼か…」  そう言って吉良は懐から札を取り出し、 「烏、ついでに雑魚の討伐もお願いする」 そう付け加えた。 「お前に命令されたく無い」  そう吐き捨てて、烏天狗は錫杖を片手に翼をはためかせ、餓鬼の群に飛び込んだ。 「あ、どうして…」  そんな中、香苗が由良と吉良に声を掛けた。 「何となく、気付いたのです」  振り向いて由良が言った。 「死鬼の姿を見て確信しました。しかし、千都ちゃんの前で、私が言って良い事では無いかと思います」 「ぉお…」  ビチャッ、と音を立てた女に、吉良は札を投げて張り付ける。 「ま、待ってくれ!!」  それを香苗が止めに入った。 「な…」  吉良は驚いて香苗に振り向いた。 「あが…動けな…」  女の方はジタバタとし、身動きが取れないようだった。  その光景を見ていた千都の後ろに、 「ぎゃぁあ!」  餓鬼が一匹飛びつこうとした。 「きゃああ!!」  千都が倒れ込んで叫んだ。
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