壱ノ話【水】

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―――十三年前――― 「美代、美代!」  おらより先に美代が出産を終えた。  産婆はおらのおっ母で、よくおらもおっ母の手伝いをしていた。  今回は美代の隣で、次の出産を待っていただけだったが。 「駄目だぁ…」  おっ母のその言葉で、美代が死んだと分かった。  元々体の弱い美代が無理して産みたいと言ったんだ…覚悟はしていたが辛かった。 「でも、赤子は元気だぁ」  おっ母の手には産まれてヘソの緒がくるりと結ばれた赤子が泣いていた。 「美代…この子はちゃんと届けるからなぁ」  美代の旦那は漁師で、隣町まで出ては漁に出ていた。  旦那は、出産祝いにでかい魚を取ってくると言って、数日前から漁に出て出産に立ち会えなかった。  最初は帰って来たら赤子を旦那に渡すつもりだった…。  それで、美代の死を悼む間もなく、次はおらの出産だった。  だが… 「香苗…すまん」 「子は、流れたんかぁ…おっ母」  おらは過去に三回子を死産した。  今回も赤子は生きて産まれる事は無かった。
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