壱ノ話【水】

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「…だから、おらは美代に恨まれて当然なんだぁ」  話終えた香苗は、何かを覚悟した顔だった。 「では…この女性が、美代さんですね」 「あぁ。美代だ…美代は悪くねぇ、悪いのはおらだぁ」  人とは思えない声を上げて、暴れている美代を哀れむように香苗は見つめた。 「だが、美代さんはもう死鬼と化している。人に害成す死鬼になってしまったら、還さねばならない」 「美代…っ!」  その時、パリンッと硝子が割れるような音が響いた。  結界を破壊した美代が、すぐ側に居た吉良の着物の右袖を掴んだ。  そして、透明の液体を吐き出した。 「ぐっ」  瞬く間にその液体は、煙を立てて右袖を溶かした。 「おっちゃん!腕が、右腕が!」  綺麗に無くなった右の袖に、あるはずの腕が無くなっていた。 「大丈夫だ!烏、案山子、千都と香苗さんを頼む!」  そう言って、吉良は懐から数枚の呪符を出し、美代に向かって全て投げた。  呪符は生きているかのように美代の周りを囲んで回り始めた。 「な…んだぁ」  動揺しながら美代はその呪符に近付けずに居た。
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