壱ノ話【水】

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 そして、吉良は首にかけている数珠を取り、呪言を唱え始めた。  すると、ボッと呪符に白い炎が灯り、段々美代へと攻め寄っていた。 「や、やめ…ろぉ、熱い…熱い」  その時、 「待ってくんろ!」  ちょこんと千都が吉良の前に出た。 「…何だ」  吉良は呪言を止めた。 「ちょっとだけ…待ってくんろ」  もう一度千都がそう言うと、千都は美代に向いた。 「…おっ母、私を産んでくれてありがとう」  千都はニコリと笑みを浮かべた。  そして、美代と香苗を交互に見て、 「でも、おらにとってはどっちもおっ母だ。ここまで、おらを育ててくれたんだ。おらは幸せだよ。だから、もうおっ母…おっ母に危害を加えないでくれ」  美代はただ、千都の言葉に耳を傾けていた。  ジッと動かずに、表情は先程よりも心なしか穏やかに見える。 「いいえ、違います」  由良が千都に優しく話した。 「美代さんは危害を加えようなんて思っていませんよ」
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