壱ノ話【水】

40/44
前へ
/524ページ
次へ
 美代は何も言わずに、優しい目で香苗と千都を見ている。 「そして、香苗さんがどんな遠い所まで逃げようが、美代さんは付いて来れます」 「お、おらが逃げようとしたの知ってたんかぁ」  由良はコクリと頷いて、 「荷物が多かったですし…何となくですが」  そう言って自嘲気味に笑った。 「そして、美代さん」  由良の表情は穏やかなまま、 「貴女はもうこの世に居てはいけません。それはこの世の理に反する事です。なので、貴女をあるべき所に還します」  そう言って由良は観音様のように両手を合わせた。 「還すって…二人は霊媒士じゃないのかぁ?」 「いいや、俺達は…死鬼還しだ」  そして、吉良は呪言の詠唱を再開させた。 「あ…が…」  美代は体をくねらせ、動き回る。 「い…やだぁ…ち、づ…かな、えぇ」
/524ページ

最初のコメントを投稿しよう!

409人が本棚に入れています
本棚に追加