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古城の奥底、果てしない歳月の経過によって脆く頼りなくなった柱が円を描くように支えている。真ん中の巨大な空間は夜の闇より遙かに濃く、絶えず冷たい風が流れ出ていた。どこからともなく水の流れるような音と魔物の声のような囁きが静かな城の内部を不気味に彩っているようであった。巨大な星カノブスより産み落とされ、滅びた古城へと下り下った〈幻妖獣〉は誰も辿り着けない深い穴の奥で存在を隠し続けていた。
ここより離れた、潤っている土地にエドラという国が誕生する。長い年月が経ち、エドラの王の冠が三代まで渡ったとき、一人の預言者が王に「死と生のどちらにも属さぬ幻妖獣が覚醒しますぞ」と、告げた。まだ若いエドラの王は極めて剣術に長けており、死の臭い芬々たる戦場においても数々の血肉の花を咲かせてきたほどの熟練の域に達していたが、好奇心が強く思慮に欠ける人間であった。幻妖獣とはどのような姿なのかと愚かな考えを巡らせては、体をぴくぴく動かしていた。
さて、その夜はいささか興奮が冷めたが眠れなかったため、葡萄酒を鯨飲し、杯を重ねていった。酔った王は勇猛な戦士になったかのように剣を鞘から引き抜き、流麗な動作でもって一振りした。幻妖獣の目覚めに立ち会おうではないか、と呟いて剣を指先でなぞった。
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