Mask-サイカイ-

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勿論それでは皆で動くことの意味はないに等しかったが、それに対して誰も文句は言えなかった。 「小さい頃に見た映画みたいに、ほんとに全滅してくれちゃったのかな」 「だと…いいね」 しかし、そんな彼らの不安とは裏腹に彼らの行程は順調であった。 まず彼らはセイバや盛岡が少しでも見覚えのあるような場所があればと、なるべく大きな道を目指した。 一つ目の足音や羽音に十分注意しながら、目立たないような小道を縫って歩き、休憩も適度に挟みながら動いた。 そしてその結果、彼らは見覚えのある大きな道を一つ発見した。そこは“凄惨”という形容詞では足りないほどに、一つ目によって滅茶苦茶に破壊されていた。奈々は盛岡の背中だけをじっと見て、周りに飛び散る死体を見ないように必死で歩いた。 そして歩くこと数十分、ついに彼らは目的であった駅に着いた。 勿論電車に乗ることが目的ではなかった。いや、動いているなら乗って帰りたかったのは山々であったのだが、それは希望の持ちすぎというものである。 「よし、じゃぁ盛岡、直人と奈々を任せるぞ」 そう言ってセイバは駅の構内に進んで行った。駅の中は死角が多い。外で盛岡たちを残していくことにも不安があったが、それでもこの中で一番足の速いセイバが行った方が、何か起きてもすぐに逃げられる可能性がある。 何よりこの役目を申し出たのはセイバであった。皆が逃げられるように、敢えて自ら危険な役目を選んだのだった。 「やっぱり…酷いな」 構内は死体で溢れかえっていた。 小さな駅ではあったが、今日は本来なら夏祭りが行われているはずだった。どこもこの駅同様に、普段以上の人が利用していたに違いない。 構内の様子は悲惨であった。死体は床に横たわっているのは勿論、何をされたのか、天井から吊るされていた照明装置に頭から突き刺さっているものまであった。その死体から滴り落ちた血溜まりの中で、きり飛ばされてきた頭が転がっており、上からの血をその後頭部で受け止めていた。 「くそ、ここは見えないか」 そう言ってセイバが懐中電灯で照らしたのは駅の料金表であった。
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