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だが先ほどのやり取りで精神的に疲弊していしまった金光にはそのような気力が湧いてこなかった。
(この人が伊出隼人・・・)
萩原は3年前のゼロとの一件以来、会ったことがなかった伊出の姿を当時を思い出しながら重ね合わせていた。当時の弱りきった伊出の姿からは想像出来ないほど、声と風格にその人物を信頼してもいいのだという確信にも似たオーラがにじみ出ていた。
「お前が指揮を取れ、磐次。ここの人間が皆お前を必要としている」
躊躇していた磐次とは違い、伊出ははっきりと金光の前で磐次にそう言った。
「しかし・・・」
「磐次」
それでも食い下がろうとする磐次を、伊出は厳しい口調で彼の名前を呼ぶことで払いのけた。
「…迷うな」
小さな声で伊出はそれだけ言った。ヘルメットの中に隠れていても伝わってくる、伊出からの視線。
磐次はその背中をそっと押してくれた一言で決心していた。
「それにだ!」
今度は皆に聞こえるよう大きな声で伊出が続けた。
「われらの金光少佐には俺と一緒に来てほしいのでな」
「なに…?」
それは磐次と金光双方にとっても意外な申し出であった。
「そんなこと自分は聞いてませんよ!?」
今まで行動を共にしていた磐次は伊出の急な申し出に対してそう答えた。本来ならばこの後、金光などの有力な兵士とある程度合流できたら、離れすぎない程度に陣形を広げてさらに広い範囲での攻勢に出る手筈になっていたのだ。
磐次はそのことを伊出に問いかけた。すると伊出は「あぁ、やっぱり厳しそうだからな。臨機応変に作戦変更だ」と答えた。
「厳しそうってそんな・・・」
あっさりと先ほどの段取りを崩された磐次は、返す言葉が見つからなかった…
「相変わらず…ですね」語尾にぎこちなく敬語を付けて金光が伊出に尋ねた。
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