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「なぜ一緒に行かなきゃ行けないんですか?ここ以上に大事な場所がほかにあるのですか?」
「市街地じゃ市民が死んでるんだ。当たり前だろ馬鹿野郎が」と後ろの方でささやく者もいたが、
金光は一切気にしていなかった。
「納得のいく説明をして下さいよ」
急かすような金光の言葉と態度に伊出は「仕方がないな」と呟くと、金光の耳元まで近づき「ゼロの反応があった」と小声で話した。
一瞬間を置いて金光は「それは…どこで?」と小声で返した。声には出さないでいたが金光はかなり動揺していた。
ネクストとしてもゼロの行方を捜していない訳がなかった。先日の公園で(セイバがその場にいたという事実にはたどり着いていなかったが)ゼロと思われるステップ・2のヴァンデルが残したと思われる痕跡を市内に調査チームを忍ばせて探っていたように、ゼロはネクストが早急に駆除するべきヴァンデルとしてブラックリストに挙げられていた。
そのようなネクストの必死の捜索でもその足取りを掴めてはいなかったゼロの情報。だが金光は伊出の言葉が嘘ではないと感じていた。だからこそ金光は「どこで?」と返すことで伊出の話す“ゼロの情報”というもの自体は肯定したのだ。「横浜の市街地から少し離れた場所だ。スーツの力があれば15分もあればここから向える」
そう言うと伊出は小さなレーダーのような物を金光だけに見せるように取り出した。
とても小さな物だったがそこには拡大された横浜の地図が表示されていた。
「…源内元技術主任の仕業か」
「そうだ。ゼロはおそらくクロック・アップを多用して移動している。このレーダーは有機生物の熱反応を個別に数百万通りは保存できる。先日の公園での事件で、運よく俺たちはヴァンデルの表皮組織に寄生していたであろうダニを回収できた。そのダニに付着していた、ほんのわずかな皮膚組織が3年前の俺の体に付着していた表皮組織と98%一致した。今こいつはその二つのデータの熱反応を組み合わせて、もっとも近似値を示した熱反応を追尾している」
驚いたことに伊出もあの現場周辺にいたというのだ。
金光はそのことにも勿論驚いたが、何よりそのようなヴァンデル追跡装置をネクストの外部で手のひらサイズ以下にまで小型化して実装しているとは。
金光はつくづく専門家というものは奥が深く、興味深い人種だと感じた。
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