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伊出達が横浜に向かって進みだしたその頃、セイバ達はまだ先ほど逃げ込んだコンビニの奥で休憩を取っていた。
奇跡的にもあの後、セイバ達の周りに一つ目は姿を見せなかった。
お陰で彼らは十分な休息を取ることが出来ており、一番消耗が激しかった直人と奈々の表情にも少しであったが活気が戻っていた。
「ん…セイバ交代するよ」
そう言って起き上がってきたのは盛岡だった。彼らは30分ごとであるが一人ずつ睡眠を取っていた。勿論この緊張感の中で眠れた者はいなかったが、少しでも気を休めることが大切だと考えての行動であった。
「おう、じゃぁ少し横になるよ」
自分から最後でいいと申し出たセイバが盛岡と交代し、コンビニの事務所から持ってきたタオルを重ねて作った簡易ベッドの上で横になった。
硬い床の上で、ましてやこの真夏に冷房も動かなかったコンビニの奥ではお世辞にも快眠なんて望めない環境であった。しかし、それでも一日中気を張り詰めていた訳であり、肉体も精神も限界まで疲れていた彼らにとって、今のこのベッドは最高のベッドであった。
(はぁ…)
セイバは目を閉じて、皆に聞こえないように小さく溜息をついた。
(意外と自分の順番が回ってくるまで大丈夫だったなぁ…皆で交代出来てよかった)
この休憩をしようと申し出たのはセイバだった。そして一番最後を率先して申し出たのもセイバだった。特に体力に自身がある訳でもないし、疲れていなかったわけでもない。実際に重たい銃を抱えて一日中駆け回り、盛岡と協力して移動していた時にも、前に出て戦っていたのはセイバであった。
それでも彼の中で、自分の休憩より仲間の休憩を優先してあげたいという思いが自然と沸き起こり、直人達に順番を譲っていた。
直人もそんなセイバの気持ちを察してか、珍しく意見もせず素直に与えられた順番に従っていた。
あれこれ意見して譲り合っていても時間が勿体無かったし、誰かが休まなければ次に進まないであったろうから、この直人の行動にはセイバも提案してよかったと思え、精神的な疲労が少しましになったようだ。
(みんな…)
寝れないであろうと思っていたセイバだったが、強烈な睡魔により、次第にまぶたが重たくなってきているのを彼は感じていた。
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