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それと同時にゆっくりと過去の映像が頭の中で蘇ってきていた。
幼少時代、橋本達と忍び込んだ廃鉱山での一日…
彼の中でまだその名前こそ思い出せなかったが、もうその映像の登場人物はのっぺら坊ではなく、喜怒哀楽をはっきりと表現できる、人間の顔がついていた。
もうこの町はなくなってしまっているのだろうか。穏やかに流れる河川敷での記憶…夢で通ったときには必ずあのフィッシャーデビルが襲ってくる場所であったのだが、今日のそこは、穏やかな川の流れに夕日が反射して、土手を駆け回る子供達の笑い声があたりに溢れていた。
頬に当たる風の感触すら思い出すことが出来るようになった頃、セイバの肩を盛岡が優しく叩いてきた。あっという間に30分が経過していた。
「あ、おう…」
「あ、ごめん寝てたのか…ってお前すごいな」
盛岡はセイバを起こしてしまった申し訳なさと、この環境で眠りについていたことに驚いて、目を大きく開きセイバを見ていた。
「もうちょっと休むかい?僕達ならもう少し見張りをしていてもいいよ」
陳列棚の角から外を覗きながら、直人はセイバにそう提案した。
「いや、ありがとう。もともと寝るつもりなんてなかったのに…疲れてるのかなやっぱり」
ここでも直人は、セイバの予想外の反応に驚いていた。一緒の施設で暮らすようになってから、大体の提案にNOと答えていた彼が、ここでも素直に意見を受け入れてから返事を返すようになっていたし、何より自分が一番という思考だったセイバが、ここ数ヶ月で誰かを気遣うようになった。そのことに直人は驚かずにはいられなかった。
「疲れてるのかなってお前~そりゃそうだろ」
そのことを盛岡は特に気にしていないようであり、その様子を見て直人も“外ではこんな感じなのかな?”と思ってあまり気にしないようにしようと自分に言い聞かせた。
「そう言えば外の様子は?」
30分熟睡できたということは、一つ目の接近はまたなかったということなのだろうが、一応確認の意味を込めての質問であった。
「うん、一匹も来なかったよ。セイバ君に言われたように羽音にも注意して見張ってたけど、一切そんな音もしなかった」
「そうか…」
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