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「うん、どうせ眠れないし起きている方が何か落ち着くんだ」
直人は再び見張りに戻っていた。外は相変わらず静かで落ち着いている。
「他に休憩を取りたい奴はいるか?」
その問いかけに全員が首を横に振った。元々無理にでも眠れる環境ではなかった。それよりも盛岡や奈々は体力がある内にもっと市内から遠くに逃げたいと思っていた。
そしてそれはセイバにも伝わっていた。しかし直人を担いで逃げるのは気にならないとして、外の安全が保障できなかった。自分一人だけならば市内から逃げるように動いていたのだが、今は皆がセイバを頼っていた。それが皆の命を預かっているのだ、という責任感としてセイバにのしかかっていた。
(くそう…こんな時磐ちゃんがいたらなぁ…ビシっと決断してくれるのに…)
自分が今までどれだけ大人に頼って生きていたのだろうか、とこの時セイバは感じていた。勿論まだまだ若い彼が大人の支援なしで生きているはずもなかったし、そうでもなければ生きていけないのは中学生である彼でもわかっていた。それでもそう思わずにはいられなかった。
「セイバ君、ここは逃げてみてはどうだろうか」
視線は外に向けたまま直人がそう言った。
「背負ってもらうしか移動手段のない僕がこんな提案するなよって感じだろうけど、このまま今のように敵から身を隠し続けても精神的に辛いものがあるよ。さっき盛岡君が言ったみたいに、あの“ヒーローもどき”が全滅させてくれたのかもしれないじゃないか」
直人にしては酷く楽観的な思考であるなと感じたセイバだったが、すぐにそれが自分を気遣っての発言だと察していた。
「…盛岡達はそれでもいいのか?」
元々逃げたかった盛岡達は“うん”と即答した。
「わかった。直人は俺が担いで動く。盛岡達は水分や何か道具を頼む」
「水分はなるべくスポーツドリンクで頼むよ。あとなるべく温い方がいいかも。下手に冷たいもので体を冷やすのは不味いから」
周囲は既に夜になっていた。夏とは言え日がなくなれば場所によっては肌寒い箇所もある。大量に汗をかいている彼らが、冷えた水分を多量に摂取して体温を奪ってしまうのは、運動量を落としてしまうことに繋がるかもしれない。
水分はすぐに集まった。道具もいいものは少なかったが、懐中電灯やライターなどの明かりやその燃料。数枚のタオルを彼らは手に入れていた。
「これは置いていこう」
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