2576人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言ってセイバが捨てたのは拳銃だった。自衛官の死体から手に入れていたものだったが、先ほど一つ目に囲まれた時にも出せなかったものだ。きっとこの後も使うチャンスなんて殆どない、ただの錘になるだけだろう。
「いいのかよ…これ使うんじゃないのか?」
「さっきも使わなかったじゃんか。いいんだよ、やばくなったら走る方がいいんだ。今までのは運がよかった、それだけだ」
「いつになく後ろ向きだなぁ…」
盛岡はそう言いながら渋々拳銃を床に置いた。その代わり、2リットルのペットボトルをもう一本、鞄に入れるようにセイバに言われ、それを手に取った。
(これで水分はペットボトル10本…家まで歩くには不安な量だけど、なんとかなるだろう)
そしてセイバも直人を背負う準備を急いだ。直人の指導の下、念入りに柔軟体操をし、手には滑り止め付きの軍手をして少しでも負担を減らすよう念入りに準備をしていた。
「痛てて!やっぱりこの紐じゃ体に食い込んで痛いか…」
そう言ってセイバは体に巻きつけた荷造り紐を解いた。なんとなく、うろ覚えの中で実行してみたがスポーツ選手の直人の体は見た目に反して重く、下手に紐に頼ると薄着のセイバの体に負担が掛かってしまった。
「なんとなくいけると思ったんだけどなー、まっいいや。がんばってこの腕だけで背負って見せるぜ」
紐に括られた瞬間、直人はデジャブにも似た懐かしさを感じずには入られなかったが、それを言葉にはせず心の奥にしまっておいた。
「よし…セイバ、外には一つ目の怪物はいないみたいだぜ」
盛岡と奈々の合図でセイバは直人を背負った。ゆっくりと無理のないような速度で外に向かって歩き、入り口で打ち合わせしていたように盛岡が先頭を、直人を背負ったセイバが真ん中に、そして最後に奈々が、お互い周囲に気を配りながら列になって歩き出した。
「静かで不気味だぜ…」
普段の街の姿とは全く別物となった横浜の光景に、盛岡はそう言わずにはいられなかった。
「静かになったね…」
怖さを紛らわせようと、最後尾の奈々もそう呟いた。最後尾を任されたのは良いものの、やはり恐怖には勝てなかったのか、奈々はセイバのすぐ真横を歩き、視線もほぼ前にしか向けられていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!