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外の駅名が書かれた看板は、おそらく一つ目によるものであろうが、破壊されており駅名は確認できなかった。しかし、構内に入れば大体の駅で各駅までの料金案内がされている。
現在自分のいる駅がどこかも、太枠であったり色が変えてあったりと分かりやすくなっているものだ。
しかし、残念ながらその料金案内表は飛び散った血しぶきで塗りつぶされてしまっており、まったくと言っていいほどに見えなくなっていた。ここで冷徹な人間であったり、精神的にタフな人間ならその辺の死体から服やタオルを失敬して、血を拭っていたのかもしれない。
だが、少し背の高い場所に掲示された案内板に手を届かせるには、その足元にある死体を踏みつけて行かねばならず、とてもじゃないがセイバには無理であった。
「仕方ない…ホームまで進むか」
ホームに向かうということは、直人達とは距離が開いてしまうということだ。自分に何かあれば走って逃げられるが、足に障害のある直人を抱えてでは盛岡達は逃げられないであろう。
だが、ホームにも各駅への連絡や、屋根を支える支柱に駅名がある。それさえ分かれば後はどちらに向かって歩けば家に帰れるのか。その手がかりが掴めるはずだとセイバは思っていた。
壊れて開きっぱなしになっている自動改札を抜けて、T字路のように左右に分かれた構内を、なるべく死体の少ないほうを選んで進んでいった。
(不気味だなぁ…なんでもっと明るく作っとかないんだよぉ)
街同様に駅の通路にも電気は来ていない。換気用なのか、少ししか開いていない窓からは、微弱な月明かりすらなかった。かと言って本当に真っ暗なのかと言えばそうでもなく、自然な夜の明かりなのか、ぼんやりと光が差し込んでいた。
暗闇に目が慣れてきた頃、セイバは懐中電灯の明かりを消した。危ないのは承知であったが、そんな通路の隅々には死体が転がっているのだ。踏まないようにと注意を払っていても、溢れた血
の上を歩く時の“ぴちゃぴちゃ”という音が余計に不気味で薄気味悪かった。そんな中、わざわざ死体を照らし出して、視覚的にも恐怖を味わいたいなどとはセイバは思えなかった。
(俺ってこんなにビビリだったかなぁ…調子に乗ってここに入るなんて言わなきゃよかった)
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