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自分の予想外の怖がりっぷりにセイバは驚いていた。今までだって、施設に夜遅く帰って来る時にも、街灯の明かりのないような路地を平気で歩いて帰ってきていた。今日だってここに入るまでは暗闇なんて全然怖くないだった。
(こういうのってあれだよなぁ…お化け屋敷かなんかにある、今にも出ますよって感じの通路だよなぁ。なんかこう平屋建ての…)
その瞬間だった。再びセイバを頭痛が襲った。
こんな所で蹲りたくないと、セイバは必死に堪えた。だが今回の頭痛は今までのそれとは段違いに酷かった。視界が二重三重になり、以前より明確に幻聴のようなものが聞こえた。
「ぐっ!」
セイバは壁にもたれかかり、必死に歩いた。
―「お父さん!」
幼い子供の声がした。再生される記憶の中で、その声はお父さんと言われた男性の肩を必死に揺すっていた。
―「今何時だと思ってるんだよぉ」
その発言と同時に記憶の映像にコントラストが付き、その場面が夜であることが分かった。
―「だって…トイレ行きたいんだもん」
子供は仕方がないじゃないか、という素振りで父親にトイレのお供をせがんでいた。
―「しょうがないなぁ…」
明日も仕事なんだから勘弁してくれよ、と呟きながらも父親は子供とトイレに向かって行った。
(あ、あああぁ)
子供がトイレへと続く廊下の床を踏みしめる感触がセイバにも伝わってきた。一歩一歩、前に歩くごとに床の軋む音が耳元で再生されていく。ほんのりと香る古い木造家屋の匂いを、生暖かい風が運んできていた。
―「そこで待っててね、お父さん!」
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