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子供がトイレのドアノブに手をかけ後ろを振り返った時、父親の顔が今度ははっきりと見えた。
めんどくさいという感情を露にしながらも、きちんと毎日のようにトイレに付き合ってくれた、そんなことは記憶が鮮明ではなくともセイバにはしっかり、父親の優しさとして伝わってきた。
「と…父さん…」
次の瞬間、記憶の映像が途切れたのと同時にセイバの頭に衝撃が走った。
「うわっ!!」
反動でセイバは後ろに倒れた。訳も分からずに顔を上げてみると、そこには駅のホームによくある鉄柱が立っていた。どうやら彼は知らず知らずの内に、目標としていたホームまで進んでいたようだ。
視界が記憶のフラッシュバックで塞がっていた為に、彼も目の前の鉄柱に気が付かなかったようだ。
「痛って~」
ぶつけた箇所を撫でながらセイバは床を見回した。どうやら運よく死体や血溜まりの上には座っていないようだ。セイバはゆっくりと立ち上がると、とりあえず目の前の鉄柱を調べてみた。そこには意図していた通り、ここの駅名が記されていた。
「ははは…あったよ。あるじゃんかよ」
思ったよりも呆気なく見つかってしまった安堵感からか、セイバはそれだけ言ってホッと肩を撫で下ろした。
さっきのフラッシュバックでの幼い自分の声や、父親の声があまりに大きかったので、安堵したセイバには周囲にいた蝉の声がやけにはっきりと聞こえた。
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