檸檬の残滓

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 あの手で握られたおにぎりは臭い。サランラップさえ「もったいないから」と言って使わないのだ。それならば、と義久は思う。 (それなら、毎朝おにぎりなんて作らないで早くに出社して冊子作りに励んでくれればいいのに)  義久は下唇を噛んだ。あまりにも自分がみじめであった。いつの間にか清算を終えたミチが隣に立っていた。 「じゃあまた会社行ってくるね」 「うん」  ミチがドアを開けると湿気がコンビニにぬるりと入り込んできた。入口の脇に求人広告があるのが目に入った。扉が閉まり、しばらくすると涼しい空気がまた満ち満ちた。  義久はそれに手を伸ばした。ふっ、とレモンの臭いがした。義久は伸ばした手を戻し、雑誌の立読みを始めた。  いつもの光景だった。
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