ハッピーバレンタイン 龍司 to 単

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「これ…」 単さんが差し出した紙袋の中には、ちょっと形がいびつなクッキー。 「上手く作れなくてすまない」 単さんは照れ臭そうにそっぽを向いた。 一つ、取り出して食べてみると、その味には覚えがあった。 「単さん、これ、俺の…」 そうだ。 これは、単さんに昔あげたクッキーと同じ味だ。 砂糖を減らして、代わりに塩を加えた、あまり甘くないクッキー。 「甘くなくて美味かったんだよ。お前が俺の事を考えて作ってくれたんだろうって、嬉しかった」 そっぽを向いたままの単さんを、俺は抱き締めた。 「ありがとうございます。最高のバレンタインデーです。でも、よく作り方わかりましたね」 「リビングの棚に、お前のレシピノートがあるだろ。あれを見て作った」 「ああ、そうでした。…そしたら、今度からは単さんが作ってくれますか?」 「いや、お前が作ってくれるんだろ? …ずっと」 ずっと…。 ああ、俺、ずっと単さんの側にいられるんだ。 「単さん…。もちろんです」 俺は、単さんを抱く腕に力を込めた。 「龍司っ、苦しい」 「あ、すみませんっ」 慌てて単さんを離す。 「龍司。お前の残りの人生を、俺にくれるか」 俺の目をまっすぐ見て、単さんが言った。 「はい」 出会った時から、単さんしか見ていない。これから先だって。 「俺は嫉妬深いし、頑固だし、偏屈だし、とにかく面倒くさい男だが、それでもいいのか」 「そんなのわかってます」 「ならば、俺の残りの人生ももらってくれ」 単さんはそう言うと、俺にキスをして、 「愛してる、龍司」 唇が離れる間際に囁いた。 だから俺も、 「愛してます。単さん」 キスをして返した。 「早く帰ろう」 単さんが色っぽく微笑むので、さっさと片付けて帰ることにした。
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