巴の場合

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「簡単で、美味しくて、ボリュームのあるチョコレート菓子ってありませんか?」 樹が周りにいないのを確かめて、僕はエミールさんに相談を持ち掛けた。 エミールさんは樹の教育係で、彫りの深い顔立ちに反して日本語がとても上手だ。 エミールさんは料理の腕も素晴らしく、特に菓子に関しては、パティシエとしてやっていけるんじゃないかってくらい美味しい。 その腕を買われて、クレセントのケーキ類は今やエミールさんが全部作っているのだ。 「そうですねえ、ブラウニーなんていかがでしょうか?」 エミールさんは笑顔で答えてくれた。 でも…。 「ブラウニーって何ですか?」 「ブラウニーはナッツの入ったチョコレートケーキです。材料を混ぜて焼くだけなので、簡単ですよ」 「いいですね、それ」 「そうと決まったら、材料を買いに行きましょうか。何しろ、バレンタインデーは明日なのですから」 「はい。よろしくお願いします」 そんな訳で、僕とエミールさんは買い出しに出ることになった。
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