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翌朝は、いつもより早く目覚めた。
隣で眠っている龍司を起こさないように、そっと、ベッドから抜け出す。
いや、眠っているというのは語弊があるかもしれない。
本当は、目を覚ましている事は分かっている。
それは、龍司の優しさなのだ。
「おはよう」
ベッドから出た俺は、棚に飾ってある、マリーの写真に挨拶をした。
マリーと離れて暮らすようになってから、毎朝の日課となっている。
龍司はそれを知っていて、無理と寝たふりをしているのだ。
マリーはというと、俺の婚約者だった。
過去形なのは、マリーが既に故人だからだ。
マリーと出会ったのは俺が高校1年生の頃だった。
マリーは外国語学校のフランス語教師として来日していて、図書館で知り合った。
俺は人付き合いが苦手だったが、マリーの明るい人柄に惹かれ、付き合うようになって、結婚の約束をして、樹が出来てからマリーは故郷に帰り、俺が医師になるまではフランスの実家で暮らす事になった。
そして、俺が医学部在学中にマリーは進行癌に罹って亡くなった。俺に心配を掛けないように、とずっと黙っていたらしい。
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