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夕食は、常に祖母の残飯だった。
粗末なあばら屋に、二人で住む以蔵は、祖母が、其の小さな骨と皮だけの身を満たす迄、じっと正座して、待たなければならなかった。
一日、一度の、満たされる事の無い食事である。
自然体は祖母の方へ前のめりになり、口からは、大量の唾液が溢れ出した。
やがて、長い食事を終えた祖母が、席を立つ。
立つ、と云っても板壁さえ隙間だらけの一間六畳程の、馬小屋よりも酷い二人の住処で在る、少し離れた所にゴザを敷き、横になって以蔵を眺める。
土鍋に頭を突っ込み、鶏骨を、ガリガリと噛み砕く。
味の染みた鍋を、何遍も何遍も舌で舐める。
其の幼い孫の姿を見て、祖母は一言、
「犬でももっとマシな喰い方するな」
と云って笑うのが常だった。
以蔵は、四国に在る、今は高知県、当時の土佐の、下級武士の家に生まれた。
岡田と云う、姓も有ったが、以蔵の家は貧しかった。
父や母は、物心ついた時には既に居なかったが、其の理由は分から無い。
気にもなら無かったのは、以蔵が、両親の居ない其の身が、不自然で在る事を知ら無かったからだ。
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