人斬り以蔵

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其れより、幼い以蔵を苦しめたのは、差別だった。 貧しい下級武士達が、己自身の鬱憤を晴らす為、更に貧しい下級武士を差別するのだ。 下級武士は下駄を履く事を許され無かった。 更に貧しい以蔵は、草履を履くと殴られた。 下級武士は金持ちの上級武士とすれ違う際、必ず土下座をしなければならなかった。 更に貧しい以蔵は、袴は勿論、褌を履いて土下座すると殴られた。 そして、家では、「犬だ犬だ」と、祖母になじられるのだ。 「俺は一番下なのか」 板敷の床に寝転がり、しばしば以蔵はそんな事を考えた。 其の問い掛けは、キリが無く、一度思うと寝れ無くなった。 そうなると、以蔵は、決まって鼾をかく、祖母を起こさ無い様、家を出た。 満天の星が頭上に浮かぶのも見ず、軒下の闇を弄り、刀を取り出した。 其れは、以蔵だけの、秘密の刀だった。 彼は以前、いざこざで死んだ下級武士の刀を、こっそり盗み、此処にずっと隠して居たのだ。
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