22人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
其れより、幼い以蔵を苦しめたのは、差別だった。
貧しい下級武士達が、己自身の鬱憤を晴らす為、更に貧しい下級武士を差別するのだ。
下級武士は下駄を履く事を許され無かった。
更に貧しい以蔵は、草履を履くと殴られた。
下級武士は金持ちの上級武士とすれ違う際、必ず土下座をしなければならなかった。
更に貧しい以蔵は、袴は勿論、褌を履いて土下座すると殴られた。
そして、家では、「犬だ犬だ」と、祖母になじられるのだ。
「俺は一番下なのか」
板敷の床に寝転がり、しばしば以蔵はそんな事を考えた。
其の問い掛けは、キリが無く、一度思うと寝れ無くなった。
そうなると、以蔵は、決まって鼾をかく、祖母を起こさ無い様、家を出た。
満天の星が頭上に浮かぶのも見ず、軒下の闇を弄り、刀を取り出した。
其れは、以蔵だけの、秘密の刀だった。
彼は以前、いざこざで死んだ下級武士の刀を、こっそり盗み、此処にずっと隠して居たのだ。
最初のコメントを投稿しよう!