人斬り以蔵

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以蔵が十七になった時、村は武市半平太の噂で持ち切りだった。 半平太は、以蔵より二つ年上の、下級武士だった。 其の家は、以蔵に負けず劣らず貧しかった。 其の半平太が、自宅脇に、道場を造ったのだ。 俄然以蔵は興味を持った。 剣には密かな自信が在る以蔵は、半平太のやり口を見て、出来る事なら自身真似したい、と願ったのだ。 早速以蔵は武市道場へ向かった。 道場とは名ばかり、ゴミの様な板を重ねただけの、粗末な建物を見て、以蔵は「矢張りこんな物が精一杯なんだろう」と、口歪ませて笑った。 しかし其の侮蔑の笑みは、道場の側迄来て、消えた。 武市道場は、大盛況だった。 剣を知りたくても金の無い、貧しい下級武士達が、我も我もと押し寄せて居たのだ。 狭い道場は人で溢れ、其の外には稽古待ちの者が列迄なして居た。 褌も履いて居ない以蔵は、道場に入る事を許され無かった。 其の扱いに慣れた以蔵は平然と、土間に正座し道場内を見学した。
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