忙しくてよかった

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「今日もみんな、本当にありがとうね!……お疲れ!」 鬼龍院翔は、楽屋に入るや否や、そう声を上げた。 ワンマンライブ直後だからだろう、シャツもびっしょりと汗に濡れていた。 「今日も楽しいライブだったな!」 「本当、熱気が凄かったよね!」 喜矢武豊と歌広場淳が、汗をタオルで拭いながら笑顔で答えている。 「あっつ、もう暫くこのままでいる……」 「研二さん、全裸は風邪ひくって」 あまりの暑さに下まで脱ぎ出した樽美酒研二に、翔は苦笑しながら言った。 ライブの後だ、ファンは近くにはいない。しかも、ブログ用の携帯カメラも今はどこにもない。それなのにそのキャラクターに従う徹底ぶり。 この後、少し休み、ブログ用のふざけた写真を撮り、化粧を落とし、機材搬出を待ちながら届いたファンレターを確認、ライブハウスを後にする。 それがいつもの流れ、である。 「わ、これ凄くね?」 いち早くファンレターを開いた豊が興奮していたので見てみると、確かに愛情がたっぷり詰まっている事が一目でわかる、手の込んだイラストが描いてあった。 「俺のとこにもそんなの来てるかな?」 「お前一番ファンレター貰ってるだろうが!」 豊の冗談めいたツッコミを軽く流して、翔は一通目のファンレターに目を通す。 文面からして、初めてファンレターを書いた人のようだ。 「バラード聴きたいって人多いね、やっぱ……」 ふと、ある一文が目に止まった。 ―鬼龍院さんって恋愛経験あるんですか?―
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