忙しくてよかった

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ある、とは雑誌でもラジオでも言っている筈だが、このファンレターを書いた人がそれを知っているとは限らない。 もう見慣れた質問だ。 恋愛したことあるんですか、彼女いたんですか、今彼女いますか。 それでもこういう質問が来る度に、翔は昔の彼女を思い出す。 雑誌やラジオではゴールデンボンバーというバンドの性質上、或いは鬼龍院翔というキャラクター上、ふざけた風に語ることもある。 ふと翔は、バックの中の携帯電話の存在を思い出した。 彼女の番号はもうアドレス帳にはないが、初めて番号を聞けた時に嬉しくて番号をずっと眺めてしまった為、頭の中のアドレス帳には彼女の番号があったりする。 (どうしてる、かな……?) 電話を、かけてみようと携帯を開く。 …… ……パタン。 閉じた。 (何してるんだろ、俺……) 今更電話したところでどうなる訳でもないし、多分彼女にとっては迷惑だろう。 とうの昔に吹っ切れた筈が、たまにこうして未練が沸き起こる。 (本当に好きだったんだな、俺……) 「……う、おら翔!」 「わ!ごめん豊、何?」 物想いに耽っていた翔は、豊の叫びで現実に引き戻される。 「珍しいな、こんなに呼んでも気づかないなんて、疲れてるんじゃね?」 「ん……ちょっと疲れた、のかも」 手を額に当ててみる。風邪ひいたとか熱を出した、ではないようだ。 今夜は、きっと長い夢を見る。 翔は、そんな気がしていた。
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