永遠の午に咲いた薔薇

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  「話したくないなら、いいよ。無理をしなくて」 「ちがうの。ちがう。無理をしているわけじゃないの。だけど。ただ、うまく、どう言ったら……どう言えば、わかってもらえるのか……どうしたら、ガブリエル、わたしを、」  見上げる潤んだ目には、不安と、いまにも溢れだしそうな強い感情が混じっていて。ガブリエルはいとおしさに駆られるまま、少女の眦に溢れる涙へと手を伸ばした。両手で頬を挟んで、親指でわざと乱暴に拭ってやる。「言って、〈白薔薇〉。あなたを?」努めて穏やかに、ガブリエルは微笑いかける。 「……こわいのよ」 「なにがこわいの?」 〈白薔薇〉の言葉は要領を得なかったが、ガブリエルは気にすることなく尋ねた。なにがこわいの。少女はガブリエルの手のひらの中で何度か唇を開きかけたが、けれどまたそのたびに、歯噛みするように目を伏せた。こくりと細い喉が鳴った。くすんと鼻が鳴った。 「〈白薔薇〉」  ガブリエルはそう言って、少女の小さな体を抱き寄せた。やわらかい薔薇の姫。こんなにも温かくて甘い花の香りのする、しろばら。赤子をあやすようにガブリエルは少女の名を繰り返した。しろばら。だいじょうぶ。しろばら。あなたをくるしめるものをおしえて。しろばら。 「……貴女に嫌われたくないのよ。ガブリエル。嫌われてしまうのが、とても、こわいの」  彼女はかろうじてそう答える。 「どうしてわたしがあなたを嫌いになるの。そんなことがあるはずないでしょう?」  けれど〈白薔薇〉はガブリエルの胸を頼りない力で押して、腕の中から抜け出した。思ってもみない拒絶に驚いたガブリエルは、かぶりを振る少女をじっと見つめた。ちがう。ちがうの、ガブリエル。貴女は何も知らない。貴女は、まだ何もわかっていないのよ。 「ガブリエル。わたしは、」  わたしは、にんげんではないのよ。  
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