永遠の午に咲いた薔薇

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   棄てられた教会や寂れた墓地、廃屋、路地裏、埃臭い地下や物陰。光を恐れ、闇の内にわだかまり、影から影へとさ迷い歩くものがいる。否、いた、というべきか。  革命以後、彼らの多くは闇の内から引きずり出され、白日の下に暴かれて、とるに足らぬ迷信と妄想の産物となり果てた。人々はさながら扼殺(やくさつ)のごとくじわじわと、けれど確実に彼らを包囲し滅ぼしていったのである。  それというのも、すべて人々が新たな信仰を手にしたゆえだ。十字架や讃美歌や聖典、祈りすらもいらぬ彼らの新しき神を人は理性と呼んだ。その光は闇を底までくまなく照らし出し、蒙昧(もうまい)から啓(ひら)かれた人々の目に、暗がりにうごめくものどもの正体を焼きつける。恐怖は無知から出づる。そしてその恐怖というヴェールを剥がされたあとに残るのは、朽ちた木の枝、野犬の眼、葉ずれや風鳴りにすぎないのだ。 〈白薔薇〉もまた、そうした彼ら闇のものたちの眷属(けんぞく)であるのだという。  かつてこの世に機械時計がなかった頃、人々の多くが時間という概念を持たずに日々を生きていたように、結局のところ誰からも存在を信じられないものはもはや存在することができないのだと。少女は自らの一族が滅びた理由をそう締めくくった。 「生き残ったのはわたしだけ。可笑しいわよね。死ぬことも、生きることもできないくせに、生き残る、なんて」  おそろしいわよね。 〈白薔薇〉の唇に、自嘲めいた笑みが浮かんだ。  ざあ、と雨が降り出した。  
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