永遠の午に咲いた薔薇

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  ――あなたのあいした花の名は。  街道をゆく一台の幌馬車。この先の村で売りさばく品なのだろう。荷台には酒樽をはじめとして、干し肉や野菜、小麦などの食料品、加えて毛皮や織物など、間近に迫る冬に備えた雑多な品々が積まれていた。それらが放つとりどりの香りが陽射しに温もる幌の中で溶け合っている。  荷台に置かれた酒樽のひとつにもたれかかっているのは少女だった。短く切った黒髪とまっすぐな眼差しが印象深く、分厚い革ブーツと吊りズボン、麻のシャツに粗作りな汚れた職人着、大きな荷物など、一見するとまるで青年だ。少女らしさを伝えるのは、華奢な首や、わずかにふくらんだ胸元くらいであろう。 「しっかし、わざわざこんな辺鄙(へんぴ)なとこまでやって来るとは、嬢ちゃんも物好きだよなあ」  ふと、馭者台で馬を操っていた四十がらみの男が振り返った。 「俺が知るかぎり、ここらにゃあんたが見て面白いもんなぞなにもありゃせんと思うんだが」 「まあ……そうかもしれませんね」  強い訛(なま)りの入った男の口調は打ち解けていたが、対する少女の反応は煮えきらず淡白であった。北の町で道行きを共にすることになってから数日、こうして旅を続けてきても、彼女の頑なな態度は変わることがなかった。少女ゆえの警戒というのであれば、当初男が勘違いしていたものをわざわざ訂正することもなかっただろう。 「うーん、嫌われちまったか」行商人の男は前に向き直ると、いたって快活に笑った。 「……そういうわけではないです」  向き合っているわけではないのに、少女はいたたまれなくなったように、視線を逸らした。生真面目な顔がかすかに曇る。 「ははは、すまんな。冗談さ。だがあんたも、そんなに肩肘張ってたら疲れちまうんじゃねえか?」小声であったからか、あえて聞かないふりをしたか、男は前を向いたままで言う。「そうだ。いい葡萄酒があるんだが、飲むかい?」  
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