永遠の午に咲いた薔薇

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   後ろ手に革袋を差し出され、少女は驚いた顔で男を振り返る。結局は遠慮して断ったが、 「あの――」 「どうかしたか」  目線を落とし、わずかに逡巡(しゅんじゅん)してから、少女は結局首を振るにとどめた。 「いや、なんでもありません。ごめんなさい」 「そうか。ま、気にするこたあないさ。あんたにも色々事情があるんだろう。こっちこそ、つまらんことを言っちまってすまねえな」 「いえ、私の方こそ、本当に……」  それきり父娘のような歳の二人の会話は尻切れに途切れ、二三の手続き上の言葉以外に長く交わされることはなかった。  馬車は夕刻過ぎに目的の村へと到着した。荷台を降りたときに男がかけた達者でな、という言葉に、少女がふたたび俯いて謝り、二人は別れた。  
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