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その古城が築かれたのがいつの時代のことか、はっきりした答えはない。城はクナルフの南西、ある岬の突端に、三方を切り立った崖に囲まれて立っている。それゆえ城へ至る唯一の道は、両側から森に食いつくされながらかろうじて名残を留める、申し訳程度の獣道だけであった。固く閉ざされたくろがねの門扉、砂色に褪せた郭(くるわ)、〈鐘の城(シャトー・クロシュ)〉の呼び名の由来である高く聳(そび)えた鐘楼(しょうろう)――特徴的な建築様式の荘厳な佇まいは、革命の以前、遥かな昔を思わせるのに十分だった。
はたしていったい誰が、いつ、なにゆえこのような僻地に城を築いたのか。いまやそれを知るのは岩礁に砕け散る波と海鳥ばかり。鐘の音の絶えて久しい〈鐘の城〉は、あとはこのまま何事もなく、ゆるやかな時の流れの内に風化してゆくものと思われていた。
つい一年前までは。
少女の父、ドニス・オッフェンバックの工房にその懐中時計が届いたのは一年前のことであった。エナメルの文字盤、細身の数字、ア・ポム針。飾り立てないシンプルな文字盤に比して、美しい彫金の施された金のケースには惜しげなく宝石が用いられており、目敏い誰かの手に奪われずここまで届いたことが、奇跡と思われる逸品だった。しかし、オッフェンバック工房の親方時計師(メートル・オルロージェ)ドニスの、時計師としての目にだけは、その時計の真価が別にあることがわかっていた。きらびやかな装飾と裏蓋の奥に秘された、精緻で、巧妙で、ユーモアに満ちた内部機構。時計製作の技術においては大国シルグニアと並ぶクナルフの、当代最高の時計師と名高いドニスですら、兜に指をかけるほど、それはある種この世ならぬ作品であったのだ。
壊れている、という一点を除けば。
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