0人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいよ。またチャンスはあるし…。」
僕は女の子をなぐさめた。
今回はしかたない。
この子の前では死ねない。
「チャンスって本当に死ぬつもり?」
除きこまれた。
薄い茶色をした大きな瞳で。
「綺麗だね…。」
僕は呟いた。
吸い込まれそうな瞳とはよく言うがこういう瞳の事を言うんだなと思った。
「質問に答えてよ。」
女の子はさらに近づいてきた。
顔に彼女の髪がかかった。
髪も瞳と同じ薄い茶色で、絹糸のように細く綺麗だった。
「そうだよ。もう僕はこの世界から消えると誓ったんだ。」
僕は彼女を見つめ返した。
女の子はその言葉を聞くと黙ってしまった。
「生きよう~また明日も~」
急に彼女が歌い出した。
小鳥のような声で。それを聴いて僕は驚いた。
「なんでその歌を?」
女の子はまた僕に目を合わせた。
「聴いてたの。歌ってたでしょ。何回も。」
「ああ…。」
「こんな前向きな歌、何度も歌ってたのにと思って、私、びっくりしちゃったの。」
無言の僕を横目に
女の子は砂になにやら文字を書き出した。
「私も生きるから、あなたも生きて?」
僕はそれを読んだ。
「お兄ちゃん、私のお兄ちゃん。海で自殺したの。それと重なって…。」
女の子はまた涙声になった。
「じゃあ、さっきのお兄ちゃんて…。君のお兄ちゃん…。」
「うん。あなたとお兄ちゃんが重なった。」
僕の手を、女の子の手が包んでいた。
その温かさに心まで温かくなるようだった。
「理由は聞かない。」
「聞かないの?」
僕は驚いて手を離した。
「生きる?」
彼女は私の肩に手を置いて、力をこめた。
「生きるよ。」
僕はつられてそう言ってしまった。
「それじゃあね。」
女の子は立ち上がると
どこかに消えてしまった。
僕はさっきお別れを言ったギターにただいまと言って、抱きしめ、
また歌いだした。
「生きよう~また明日も~」
最初のコメントを投稿しよう!