山田さん

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山田さん

初めての作業は土器洗いでした。 外の洗い場で土器を洗うんですね。 洗い場を挟んで駐車場。 そして作業室が見えるわけです。 電気を消して4人で外に出ます。 誰もいないわけです。 皆、出てるんだから。 でも、いるんです。 誰かが。 洗ってる途中にふと作業室を見ると 窓際に女の人が立っているんです。 顔は見えない位に髪が長くて…白い着物を着ているんです。 目が合うと、いえ相手の方の顔面なんて髪に覆われていて目なんて分からないんですが なんとなく、目があったような気がするのです。 そして、生白い手を おいで、おいで と、動かすのです。 どうやら、吉岡さんにも見えたのか…それとも気配を察したのか 「今日は、休憩は中じゃなくてここで取ろう。お茶持ってきてるしね。」 この女性、要原さんと翔太には見えてないようです。 博物館は14日勤務なので休館日以外はいつでも来てよいなんですね。 だから、翔太と二人だけという時もあります。 でも、実測室には人がいる。 翔太と話しながら作業室で作業してた 「ここ、たまに着物の女性がおる。」 「は?幽霊?名前は?」 「名前わからないから…山田さんでいいんじゃない。」 全国で一番多いであろう苗字を口にした。 「なんで山田?(笑)」 私はどうやら… 『私、山田。今日から山田。』 とんでもないものに名前を与えたかもしれない。 翔太の背後で、命名山田さんは嬉しいのか体を縦刻みに揺らしていた。 長い髪のおかげで表情はわからなかった。 「…真面目に仕事しようか。」 何も見なかったことにしたい。
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