人知れず刻は流れる

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 私立桜皇学園の敷地は広い。やたら、広い。  敷地内にある学生寮を目指し、ひたすら足を運びながら、うんざりと少女は小走りに進む。  一応寮に一番近い門から入ったのだが、軽く15分は歩かなくてはいけない。 ゆっくり敷地内の緑を楽しみながら、ならば楽しいかもしれないが、今はバイト帰りでしかも門限まであと10分、寮母の見回りまであと20分。急がなければ、口煩い寮母のお叱りと、罰則…しかも今月はすでに三回、門限を破っているから、バイト先への抗議や親への連絡もある。 「…バイト代入ったら自転車、買おう… 」  そしたら防犯手続きして、学園内での使用許可書提出して自転車置き場の利用許可もらって…つらつら考えながら歩いていると、前方、街灯の死角に何かが踞っているのが見える。  思わず、足を止める。  こんな時間に…寮生の誰かがうずくまっているのか…近付いて声をかけるべきか…と、昼間、友人から聞いた噂話が頭を過る。 『うちの学校、出るんだって…』 『ほら、大講堂建てるときに、お墓が大量に出てきたって』 『それ以来、出るらしいよ』 『流石に鬼憑きは出ないみたいだけど』 『気を付けないと、魂抜かれるって話だよ』  世界大戦中に起きた 『大疫災』 の影響で、あの世とこの世のバランスが崩れ、所謂魑魅魍魎が人間界にあらゆる災難をもたらせている。  その中でもポピュラーなのは『鬼憑き』とよばれる、人の体に複数の魂が飛び込み、凶行に走る。
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