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学園内は結界が張ってあるから大丈夫…と頭ではわかっているし、自身も国家公務員になるために退魔術を学んでいる。
しかし…この背筋の産毛が逆立つような悪寒は何だろう…
と、空を切り、鋭い音をたてて地面を強かに叩く音がする。
「…速やかに寮に戻りなさい。門限破りになります。」
やや低めの耳障りの良い声に振り向き、固まる。
柔らかい街灯の明かりの下、黒いライダージャケットの鋲が鈍く光る。軍帽らしき帽子を深く被り、顔はよく見えないが…唇の艶やかな赤が眩しい。ホットパンツから伸びる脚はニーハイブーツに包まれていて、硬い音をたてて歩み寄ってくる。
「寮母の見回りまでに部屋にもどりなさい。」
「…で、でも!」
落ち着いた声に、震えていた体が安堵するのがわかる。
「あれは…」
「猿です。早く行きなさい」
軍帽の下からのぞく、鋭い視線に、弾かれたように寮に向かって走り出す。
怖い、怖い、怖い!
恐怖が今頃襲ってくる。一刻も早く寮に戻らなくちゃ!
少女は振り向きもせず、走り去る。
それを見送り、軍帽の彼女は改めて影に向き直る。
「誰が猿だ」
影は不機嫌そうな声をあげ、勢いをつけて立ち上がる。長身痩躯。声から察するに、若い男性のようだ。
「こんなところで、そんな姿、見られたくないでしょう?早く戻ってください。」
軍帽の彼女に促され、影は大きく伸びをして歩き出した。
寮とは逆の、闇深い方へ二人は消えていった。
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