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新しい制服に袖を通し、中学ではまとめていた髪も、丁寧に梳かして下ろしてみた。
そこそこの長さになった髪の毛が、ブレザーの上でさらりと揺れる。
鏡に映る、新鮮な自分の姿。
新生活の始まりに胸を高鳴らせる私は、にやける顔をきゅっと引き締め鞄を手にした。
「いってきますっ」
新しい靴を履いて、ドアノブをガチャリと捻る。
目に入るのは、朝の眩しい光……
「はよー愛梨。んじゃ、行くか」
「…………」
「寝呆けてんの?ちゅーすんぞ」
爽やかな朝日は目の前の巨人に遮られ、私を迎えてはくれなかった。
こんな朝っぱらから性悪男に絡まれるとは。ツイてないな、自分よ。
「無言は肯定と取る。つーわけでちゅーな」
巨人が少し屈んで顔を近付けてくる。おいおい、いくら良い造りの顔面だからって冗談キツいぜ。
「……ひとつ訊いていいですかおにーさん。ただのご近所さんの筈のおにーさん」
「ただのご近所さんは酷くね?もっとイイ仲なのに」
男は笑った。ニヤリと嫌な顔で笑った。
前髪同士が触れ合いそうな距離で、身震いするほど性格の悪そうな笑顔が作られている。
お前の美顔は解ったから顔を離せ。
「……ああ、じゃあ訂正します。
一応幼なじみと言う間柄のおにーさん、私に何の御用で?」
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